ソーシャルメディアとアルゴリズム
近年Facebook、YouTube、そしてTikTokのようなソーシャルメディアにとってアルゴリズムはもっとも重要な要素の1 つになっています。例えば、YouTubeで再生されている動画の70%はYouTubeがリコメンドしたものになっているそうです。つまり、ユーザーは自分で観たいコンテンツを探し出すよりも、YouTubeが提示しくれた中から興味のあるものを選択して視聴しているということになります。なお、ここでいうアルゴリズムというのは、ユーザーが観たいと思えるコンテンツに何を提示させるかを導き出している計算方式を指します。
さて、このリコメンドの性能が抜群に優秀だと評判の良いソーシャルメディアがあります。それがTikTokです。TikTokは中国に拠点を置くByteDance(バイトダンス)社が提供しているショートムービープラットフォームです。簡単に説明しますと、短い動画を共有するオンラインのサービスで、昨年12月の時点で、月間アクティブユーザー数が約20億人に達するほどの人気になっています。
動画を共有するという意味ではYouTubuと似たサービスになっていますね。ちなみに最近の大学生はニュースもTikTokで観ているそうですよ。
さて、TikTokの成功の秘訣もやはりアルゴリズムにあります。彼らは、ユーザーの欲求を把握し、ユーザーが興味を持っているコンテンツを次々に提供するためのアルゴリズムでユーザー数を獲得してきましたと言われています。
Wall Street Journalが暴いたTikTokのアルゴリズム
さて、そうなると、実際にTikTokがどのようにしてユーザーにリコメンドするコンテンツを選んでいるか気になりますよね。
Wall Street Journalが、2021年7月21日に、『INSIDE TIKTOK’S HIGHLY SECRETIVE ALGORITHM(TIKTOK内部の極秘アルゴリズム)』というタイトルの動画を公開しています。そこで今回は、Wall Street Journalがどのような方法でTikTokのアルゴリズムを特定したのか、また実際のアルゴリズムはどのように計算されているのかについて紹介したいと思います。
いきなり本題に入りますが、Wall Street Journalが取った手法は以下のようになっています。
100以上のTikTokの自動アカウントもしくはボットを作成
各ボットには生年月日と、IPアドレス(位置情報になる)のみを与える (性別などはの情報は入力しない)
アプリ上で何10万もの動画を視聴させる
検証内容としては、例えばあるボットには特定の分野の動画 (例えば悲しい内容の動画や鬱になる動画) だけを見せるように設定したり、もしくは逆に色々な種類の動画を見せるボットを作ったりして調査を進めたそうです。
驚きの調査結果!
Wall Street Journalは、調査の結果、どのぐらい動画を視聴したかがもっとも重要なファクターになると結論づけています。逆にいうと、シェア、「いいね!」、フォロー、検索、視聴内容についてはほとんど影響を与えていないとのことです。
この結果は意外だったのではないでしょうか?
私もてっきり様々な要素を組み合わせてリコメンドする動画を割り当てているのかと思っていましたが、Wall Street Journalは、コンテンツの視聴時間という1つの要素だけだと断言しています。
一方、実はTikTokも、どのようにコンテンツをリコメンドしているかについて、彼ら自身のWebサイトで公開しています。TikTokの説明では、おそらく多くの皆さんが想像するとおり、様々な要素が重要になると記載されています。
❙ TikTokが公開しているリコメンドに反映する要素
ユーザーの反応:
「いいね!」や「シェア」をした動画、フォローしているアカウント、投稿したコメント、作成したコンテンツなど動画情報:
動画内のキャプション、音声、ハッシュタグなどデバイスおよびアカウントの設定:
言語や国の設定、デバイスの種類など。
ただし、システムのパフォーマンスを最適化する目的がメインでリコメンドにおける比重は低い
また、TikTokは「filter bubble」にならないように、ある特定の分野の動画だけをリコメンドしないようにあえてユーザーの好みとは異なる動画をリコメンドに出すと説明していますが、これもWall Street Journalは否定しています。
❙ TikTokの説明
「For Youフィード」を常に面白く、変化に富んだものにするために、私たちの推薦システムは、あなたがすでに好きだと知っているコンテンツに加えて、さまざまなタイプのコンテンツを織り交ぜるようにしています。
To keep your For You feed interesting and varied, our recommendation system works to intersperse diverse types of content along with those you already know you love.
Wall Street Journalによると、たしかに7%ほど他の種類のコンテンツも含まれていたが、その中の大半はただの広告だったと報告しています。
TikTokの調査結果に対する反応
TikTokの広報担当者によると、人間には多様な関心事があるため、Wall Street Journalのボットは実際のユーザーの行動を示していないのではないか、ということでした。アプリの中には、動画を見ているときに「not interested」ボタンがあり、特定の種類のコンテンツには興味がないことをアプリに伝えることができるので、そういう機能を使いながら動画の種類を絞るといったことも実際には可能だと説明しています。
Wall Street Journalの提唱
アルゴリズムに対してどんなことに興味があるかを伝えてしまうと、そのコンテンツたちから抜け出す選択肢を与えられずに、どんどん見続けしまうことを、Wall Street Journalはこのニュース動画の中で懸念しています。例えば憂鬱な動画を観ると、次々に鬱になるような動画や悲観的な動画で埋め尽くされるといった具合です。
一方、「アルゴリズムが悪い」「TikTokは悪だ」ということではないということも強調しています。
重要なことは透明性の確保だそうです。つまり、テクノロジー企業側は、どのような要素によってそのコンテンツをユーザーのフィードに入れたのかということを明確にすべきだということです。反対にユーザー側も、なぜ自分のフィードにこのコンテンツが入っているのか、どのようにしてアプリは私がこれを見たいと思うようになったのかについて、理解するように努めるべきだとしています。
ちょっとした感想
いかがでしたでしょうか?
TikTokが視聴時間しか重視していないという結果には驚いたのではないでしょうか。個人的にはとても意外でした。と同時に、なぜ視聴時間だけしか重視していないのか疑問に感じました。TikTokが説明しているように様々な要素を入れるほうが最適なコンテンツを提供できそうな気がするのですが。。。
残念ながらWall Street Journalは、なぜ視聴時間だけなのかというところまでは解説していませんしね。謎が残ります。
さて、もう1つ疑問に思ったことは、TikTokが実際にあまたあるコンテンツの中からどれをリコメンドに出すのかについて、どういうアルゴリズムを用いて決めているのかということです。Wall Street Journalが解説したように視聴時間しか重要視していないとして、その情報だけでユーザーを惹きつける動画を提供するのはすごく難しそうな気がします。
ただ、20億人もアクティブユーザーがいるTikTokですからね、きっとものすごく洗練されたアルゴリズムが裏で動いているのではないかと想像しています。気になりますね。
このあたりはまた機会を見つけて、情報があればこちらのTech Blogで紹介できればと思います。そして、もし、そういった情報をお持ちのかたがいらっしゃいましたら、ぜひコメント欄に投稿をお願いします!