話題のLow-Code/No-Codeは企業DXの救世主になるか?
多くの読者の皆様は、Low-Code/No-Code(ローコード/ノーコード;以降LC/NC)というフレーズを頻繁に見かけるようになっていませんか。IT関係のコミュニティでは最近、頻繁に宣伝されており、注目されつつあります。フレーズの文字通り、コンピュータープログラミング(以降コーディング)を簡素化し、スピーディにアプリケーション処理を展開できるツールやプラットフォームを指すものですが、最小限だが必要最低限のコーディングを必要とするLow-Codeとコーディングを必要としないNo-Codeを合わせたツール群の総称です。IDCは、今後、ますますLow-Code/No-Codeが使われるようになり、世界のLC/NC開発者の人口は、2021年から2025年にかけて年率40.4%で増加すると予測しています。Gartner社は、LC/NCは2020年から30%近く増加し、2021年には58億ドルに達すると予測しています。Forrester社もLC/NCの流れに乗り、2021年末までにアプリケーション開発の実に75%がLC/NCプラットフォームを使用するようになると予測しています。
Low-CodeとNo-Codeの違い
Low-CodeとNo-Codeは、一緒に語られることが多いですが、そのツールの性質は若干異なります。
Low-Codeとは、主に開発者を利用者のターゲットとし、コーディングや開発をスピーディ且つ容易に行えるようなツール群で、複雑なプロセスのシステム化等、容易に開発し易くします。開発者が迅速にシステム化できるプラットフォームを提供しながら、特殊要件への対応等、カスタム開発を許容できるのが特徴です。
一方、その名前の通り、No-Codeは、コーディングスキルをほとんど必要とせず、パッケージ化されたテンプレートを、ポイント&クリック、ドラッグ&ドロップなどのソフトウェア技術を用いてシステム開発でき、主にプログラミング知識がない業務従事者を利用者のターゲットとしています。LEGOブロックを使ってソフトウェアアプリケーションを構築し、シンプルな業務手順や比較的簡易なプロセスに対応し、問題解決するイメージです。 このようなLow-Codeアプリケーションは、最小限のITサポートを必要とするため、迅速に導入することができ、費用対効果も高いと言われています。大規模開発等ができない中小企業など、予算がなく内製化で簡易開発できるのが特徴で、コーディングが不要な分、複雑な業務プロセスやシステム統合に向いていません。
用途や向きに違いはあるものの、Low-CodeとNo-Codeの両プラットフォームは、アジリティ(俊敏性)をユーザーに提供することが共通しています。また、簡単にシステム化が出来る分、プラットフォームが「ブラックボックス」化され、セキュリティリスクを内在する等、情報セキュリティに絡む課題もあります。一長一短ありますが、短期的且つ簡単に業務のIT化対応が可能なことは魅力的であり、どのようなツール群もそうですが、利用者側がその特性と内容を理解して利用するには有効なプラットフォームと位置づけられます。Low-CodeとNo-Codeを組み合わせて、適用するプロセスを選別コントロールし、望ましくは両方のメリットを享受することも不可能ではありません。ただし、これらは、利用者側のシステム開発に絡む周到な計画とガバナンス統制が必要なことは言うまでもありません。
Source: https://tigersheet.com/blog/low-code-vs-no-code-whats-the-difference-infographic/
Low-Code/No-Codeのメリットとデメリット
LC/NCの開発は、多くのビジネスユーザーに重宝され、これからも利用が拡大していくと思われます。例えば、ちょっとした変更要求に対して情報システム部門が対応するのを何ヶ月も待たなければならなかったようなことを、現場の従業員が開発できてしまいます。また、LC/NCの導入コストが比較的低いことや、アプリケーションの提供が早く簡単になることも後押しするファクターとなります。
一方で、LC/NCは、時間が経てば経つほど顕在化してくる問題がいくつかあります。例えば、現在の複数の問題を解決するためにLC/NCを使用すると、将来的に統合問題が発生する可能性が高くなります。また、殆どのLC/NCアプリには、ある程度のセキュリティが組み込まれていますが、複数の部署の様々な現場ユーザーがLC/NCを使ってシステム化が進むと、将来的にセキュリティ問題が発生する可能性が高くなります。次に、組織内でLC/NCが広く使われるようになると、ユーザーが自分の部署のニーズに合わせて新しい画面などのマイナーチェンジを開発するため、データサイロ(分断された非連携データ)の数がさらに増えてしまう可能性があります。また、LC/NCベンダーの増加により、プラットフォームの数が増えれば、いずれは断片化が進み、将来的に問題が大きくなり対応が必要になるかもしれません。
Gartner社は、様々なテクノロジーを組み合わせて、組織のプロセスを統一的かつ統合的に自動化することを、「ハイパーオートメーション:Hyperautomation」と称しています。 Forresterは、このアプローチをデジタル・プロセス・オートメーション(DPA)と呼び、IDCはこれと全く同じ意味でインテリジェント・プロセス・オートメーション(IPA)と呼んでいます。いずれの場合も、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、インテリジェント・ビジネス・プロセス・マネジメント(IBPM)、機械学習(ML)、人工知能(AI)などのテクノロジーを統合的に導入し、可能な限り多くのタスク、アクティビティ、プロセスを合理化、調和させることを意味しています。
理想的には、このHyperautomationの理念にて、部門とベンダープラットフォームの両方にまたがるコラボレーションを促進され、全社的な業務の自動化が進むべきですが、LC/NCを積極採用することにより、エンドユーザーが「民主化」され、独自に断片的なシステム化が出来てしまうためにサイロ化の問題を顕著になります。LC/NCはサイロを破壊するのではなく、部門間のサイロを強化し、さらに多くのデータサイロを生み出す可能性があります。LC/NCとHyperautomationが相まって機能することを企業は望むと思われ、今後、個々の現場ユーザーのニーズをタイムリーに満たすのと同時、全社的な観点で、業務プロセス全体を踏まえた自動化の統合・統制された形で展開できること重要になると考えらえます。企業を取り巻くRPA、AI/MLと進展が急速に進め中、両者が関係ないように見えて、これは企業DXの要となる可能性を秘めた動きだと思うのは私だけではないと思います。。
Low-Code/No-Codeと技術的負債(テクニカルバックログ)
技術的負債とは、情報システム部が最適なソリューションを適用する代わりに、短期的に実装しやすいコードを使用することを選択した場合に発生する余分な開発作業のことを指します。多くの企業が技術的負債を抱えているのは、短期的な思考や要件の変化、そして何十年もの間、情報システム部が体系的な思考ではなく、個々の部門の利己的なニーズに年月を積み重ねて対応してきたという単純な事実が原因です。LC/NCは、以下に挙げれるように、この技術的負債の削減するのではなく、悪化させる可能性があります。
現場で小規模なLC/NCソリューションを実装すると、バージョン管理が困難になる
LC/NCが問題なく動作しているときはいいのですが、いったん問題が発生すると、性質上ブラックボックスのため、テストやデバッグが困難になる
多くの企業システムは多くの個別分散システムと接続する必要があるため、LC/NCソリューションの統合は複雑になる可能性がある
今後の方向性
LC/NCは明らかに短期的な利益をもたらし、今後も現場ユーザーにニーズに応えるべく利用が拡大していくと思います。ERPやCRMなどの企業システムの欠点を補うために、EUC(End-User Computing)の名のもと、ユーザーはExcelスプレッドシート等のツールを利用するようになっています。これは、多くの企業の現場で多用されており、データ管理や連携の阻害要因になっていることは言うまでもありません。LC/NCは、比較的に安価で迅速かつ簡単に実装できる代替手段を提供します。しかし、LC/NCは、一連の管理上の課題を引き起こす可能性があります。現場ユーザーが拡張性のないアプリケーションを開発し、それを情報システム部が引き継いて管理できるのか、また、開発者本人が退社した場合のサポートをどうするか等、ガバナンスや統制管理を無視することはできません。下記、Gartner社のMagic Quadrantでは、Low-Codeソリューションを提供する企業の数が着実に増えていることがわかります。個々のベンダーに関する優劣をここで論ずることは避けますが、ここで注目したいのは、このLow-Code/No-Codeソリューションベンダーが企業のデジタル化戦略に与える影響を無視できないと思われることです。早く確実に現場の情報化ニーズを解決し、結果を得たいビジネス現場のユーザーは、LC/NCを積極的に活用するであろうことから、もっか企業のデジタルトランスフォメーション(DX)が叫ばれる現在、戦略的な活用がますます重要になると思います。企業は、リソース不足や利益優先を言い訳に、いわゆる、「現場に放置」し、何とかやってくれるであろうという無責任な考えから、これらが企業DXを阻害するだけではなく、データサイロ化を助長し、また、いたるところに、LC/NCのベンダー・ロックインの大きなリスクにつながる可能性があるのではないでしょうか。
では、企業DXを推進するにあたって、何がカギとなるのでしょうか?
LC/NCのあくまでもツールであり、本質的に重要なのは、部門間の協力体制と企業全体のプロセスデザインではないかと思います。DXは人がドライブするので、当たり前ですが、部門間の協力が得られないと、変革の取り組みに支障をきたします。Accenture社が発表した2020年のレポートによると、グローバル企業1,500人のシニアおよび上級役員のうち、実に75%が、異なる部署がデジタル化の取り組みで協力するのではなく、互いに競争している、とリサーチ結果が出ています。これが問題なのです。各部門が自分たちの技術的ニーズだけを見ていては、誰も全体像を把握することができません。部門間の協力体制がなければ、CX(カスタマーエクスペリエンス)向上やエンドツーエンドのプロセス最適化は困難です。
まとめ
欧米やシリコンバレーでは、LC/NCが注目され、企業のIT化ニーズを短期的に解決するソリューションであると、マーケティングが活発になっております。目先のツール群やプラットフォームに惑わされず、それはあくまでもツールであり、企業の部門間のサイロをどのように打ち破り、改善するのか、それがDX推進の重要なカギであること間違いありません。慎重に導入しない限り、LC/NCは混乱を導き、DXの阻害要因になる可能性があります。トレンドとなりつつある現在、統合サービスの一環として、LC/NCの適切な利用と全体プロセス最適化を見据えた企業DXを推進する「統合デザイン」が望まれているのではないでしょうか?今後、このような視点で、LC/NCを活用して企業DXを推進するプレイヤーが増えてくると思われ、その動きに注目していきたいと思います。
Reference:
◆ Low-Code/No-Code: A promising trend or a Pandora’s Box
https://venturebeat.com/2021/07/24/low-code-a-promising-trend-or-a-pandoras-box/
◆ Gartner Magic Quadrant on Enterprise Low-Code application Platforms
https://www.gartner.com/en/documents/3991199/magic-quadrant-for-enterprise-low-code-application-platf
◆ Accelerate Digital Transformation with '“No-code” software tools
https://sloanreview.mit.edu/article/accelerate-digital-transformation-with-no-code-software-tools/