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自宅に残した自家用車の自動車保険がもうすぐ切れます。買い替えも「もうそろそろかな」と、考え始める中、「次はEV、自動運転車」と妄想したのですが、では、その自動車保険ってどうなるのであろうと、考え込みました。自動運転車(Self-Driving/Autonomous Car)については、国土交通省が定義するする自動運転レベルのレベル3以上を自動運転車と定義しております。ここ、米国カリフォルニア州では、Tesla社が多く走っており、多くの人が自動運転機能を利用しています。現在、開発が期待される自動運転車について、現状の米国の動きを少しだけ、追ってみました。
誰が保険に入るのか?
自動運転の実用(レベル2~3)で大きくリードしている米Tesla社は、2019年より米国カリフォルニア州で自社販売の自動運転車に対し保険を提供しています。米国では、Tesla車の保険は年間平均で、$4,352と言われています(少々、高価ですね)。当然、条件とカバレージに応じて金額は大きく変わってきます。Teslaは、同社が提供するModel 2と3は他社保険会社の保険料より20-30%安価で提供していると述べています。このTesla社の例の通り、自動車保険は基本、車のドライバーに掛けられ、所有者が負担することとなっています。では、そのドライバーが運転していなければ、誰が保険に入るべきでしょう?
米GM社が支援する自律走行車企業「Cruise」の創業者であるKyle Vogtは、2017年に、スタートアップが2019年までにニューヨーク市で運転者不在の自律走行車(Driverless Vehicle:DV)のテストを開始すると宣言しました。それは実現せず、Cruise社は2018年8月に試験運用を中断しましたが、Vogt氏の宣告から数年で自動運転車は大きく動いています。2021年7月、米Ford社とArgo AI社は共同で、マイアミとテキサス州オースティンでLyftのライドへイリング(送迎サービス)ネットワークにDVを投入することを発表しました。また、Aptiv社と現代自動車の合弁会社であるMotional社は、ラスベガスのダウンタウンでの展開に続き、ロサンゼルスでもDVのテストを開始する予定です。また、インテル社のMobile Eyeは、競合他社であるCruise社に先んじて、ニューヨーク市でいち早くDVの試験運用を開始しました。
専門家の間では、10年以内に自動運転車の普及が現実味を帯びて普及すると予測されていますが、一方で、その保険のかけ方については未解決の課題が残っています。根本的に、だれが責任を持つのか、自動運転車の所有者に保険が必要なのか、それとも自動運転を提供している製造元か、まだ曖昧な部分があります。自動運転車の設計上の欠陥が原因で事故が発生したと判断された場合、責任は製造元メーカーにあると考えられています。どのように保険を掛けるべきなのか、補償はどのようになるのか、まだまだ、決まっていないのが実状だと思います。
米国に於ける新たな動き
このような課題に対応するために、新しいビジネスモデルを考えたスタートアップ企業が登場しています。それは、主に、自動運転・自律走行車のデータをリアルタイムで収集し、利用者・製造元へ適格に保険料を設定するモデルです。
Source: Koop Technologies
米ペンシルバニア州ピッツバーグに本社を置くKoop Technologies社は、自律走行車やロボット、そして「機械中心」のリスクに対応する「APIを活用した」保険プラットフォームを開発しています。Koop社は、自律走行車やロボット企業からデータを収集し、それを保険の引受、リスクコスト、クレーム処理に利用することで、開発者、オペレーター、保険会社が、より多くの情報に基づいてリスクの移転や価格設定を行うことを可能にしています。
Koop社の特色は、従来のテレマティクスのアプローチに比べて、余分なハードウェアを必要とせずに、自律走行車のデータを大規模に収集できる製品を持っていると言われています。仕組みは具体的に説明されていませんが、このような大規模なデータ収集により、収集したデータセットを集約し、機械学習モデルを展開することで、自律走行車のリスクコストを動的に価格設定することを可能としています。
Koop社は、すでに大手保険会社と提携し、自律走行車やロボット関連の顧客向けの特別プログラムを開発しています。それは、ベンチャーキャピタルのUbiquity Venturesの目に留まり、同社は250万ドルのシード資金を調達しました。
同社は、プラットフォームを通じて収集したメーカーやオペレーションレベルのデータを活用することで、自律走行車やロボットのリスクをより適切に評価することができ、さらに、特定のユースケース(自律走行トラックやロボタクシーなど)では、プラットフォームが接続されたセンサーハードウェアを活用するため、クレーム処理のプロセスを大幅にスピードアップできると表明しています。輸送、ドローン、倉庫、農業、建設など、さまざまな分野で自動化(オートメーション)への移行が進んでおり、同社のビジネスチャンスは大きいと期待されています。
カリフォルニア州ウェストレイク・ビレッジを拠点とするインシュアテック企業のAvinewは、自社のプラットフォームで異なるアプローチを取っています。
Source: AVINEW
Avinew社の車の使用状況に応じた保険プログラムでは、モバイルアプリを使ってテレマティックスデータを収集し、それにより半自律的または自律的な自動運転機能が適格に運転者が責任を持って利用されたことを検知します。これらの機能は、TeslaのAutopilot、GMのSuper Cruise、FordのCo-Pilot 360やBlueCruise、日産のProPILOT Assistなどの先進運転支援システム(ADAS)の範疇に入ります。このデータから、Avinewは、契約者がプランの保険料の割引を受けることができるかどうかを判断します。ここでのポイントは、自動運転機能を適格に使えば使うほど、保険料の割引が適用される考え方です。人的操作ミス等、人より、自動運転機能が原因で発生する事故が少なくなり、また、それを裏付けるデータを収集し、割引率を算出する考え方だと思います。ただし、データに対するプライバシー問題も浮上しており、割引率を受ける代償として多くの行動データを提供しなければいけません。プライバシーデータの扱いは、今後の大きな課題として残ると思います。一方で、データと引き換えに割引が高くなることを期待する調査結果も出ています。2018年のJ.D. Power Pulseの調査によると、4割の消費者が半自動運転機能の割引を提供する保険会社に乗り換えたいと考えていることが結果として出ています。さらに、7割近くの人が、先進的な安全機能を搭載した自動車に対して保険会社が割引を提供することを期待していると言われています。
電気自動車メーカーのRivian社も、同社のトラック「R1T」とSUV「R1S」に搭載されている半自動運転システムを利用する顧客を対象に、Nationwide社が引き受ける保険の割引を提供する予定です。また、ハンドル操作や車線変更、加速などを行う「ハンズオフ・アイズ・オン アクティブ・ドライビング・アシスタンス」機能を継続的に使用するオーナーには、さらに保険料を引き下げるとしています。また、数年前には、英国最大の自動車保険会社であるDirect Line社が、Teslaのオーナーにオートパイロットを利用にすると5%の割引を適用すると促すケースもありました。また、オハイオ州コロンバスに本社を置く保険会社Rootも、オートパイロットシステムを搭載したTeslaのオーナーに料金の割引を行っています。
自動車再保険会社のSwiss Reと地図会社のHereは、半自動運転システムによって自動車事故の発生頻度を最大25%削減できる可能性があり、自動車保険料を200億ドル削減できると見積もっています。KPMG社のレポートによると、自律走行による安全技術は、25年以内に、米国で2,440億ドル規模の個人向け自動車保険部門を現在の40%に縮小する可能性があるとしています。
ハードルは多い
しかし、すべての保険会社が自動運転車に信頼を置いている訳ではありません。多くの保険会社は、自動運転システムが安全に寄与するという自動車業界やハイテク業界の言い分を検証するための十分なデータがないとしています。また、一貫した基準がないことや、ドライバーが予測不可能な方法でシステムを使用すること等も、自動運転技術を全面的に支持しない理由として挙げています。また、自動運転システムは高価な部品に依存しているため、修理や交換が困難であることも障害となっています。米保険大手AAA社の試算によると、必要なセンサーを搭載することで、修理代が$3,000増加すると言われています。つまり、信頼性の裏付けが不十分で、運用コストが高いという点が挙げられています。
Tesla車の衝突事故や、2018年にUberのテストカーの死亡事故等が後押しとなり、一部の保険会社が取るべき道は法律によって決まるかもしれません。英国では2018年に自動化電気自動車法(Automated and Electric Vehicles Act)が制定され、自律走行車に対する自賠責保険を「単一保険会社」モデルとして規定しています。自律走行車が事故を起こした場合、自走中に生じた損害については保険会社が責任を負いますが、事故の原因が過失によるものである場合は、保険会社や車の所有者は責任を負いません。ここでいう「過失」とは、適切でない場所で車両の自動運転を許可した場合や、重要なソフトウェアアップデートをインストールしなかった場合などを指します。米国では、少なくとも連邦レベルで、この責任問題が自律走行車の法制化を阻んでいます。しかし、この議論が続いている間にも、自動運転車の普及は、規制の枠組みを無視して、すでに保険市場の変化を余儀なくされています。
まとめ
欧米では、Koop Technologies社のようなスタートアップ企業が多く出てきており、安心してリーズナブルな自動運転車の保険が提供される日はそう遠くはないのではと感じております。AI/ML/DLが加速してテクノロジーの日々進化が目覚ましい現在、自動運転車の普及は様々なハードルがあるもの、実用化に近づき、その保険がどうなるのか、注目されると思います。今回調べていく中で、自動運転車の保険は複雑で、未だ高価であることを認識しました。規制や補償、また安全性や信頼の問題は、多くの課題があります。国土交通省の定義によると自動運転レベルの3~5までは自動運転システム側の責任と定められておりますが、まだまだ、所有者か自動運転機能提供元が負担するのか保険の在り方が問われるようになると思います。スタートアップ企業のTrov社は、Alphabet(Google)のWaymoが提供する自動運転車を利用したライドヘイリング(送迎サービス)にて乗客の損害保険を無料で提供することを発表しております。UBERやLyft等のライドシェアサービスも、自動運転車で運営される未来は近いのかもしれません。自家用車を所有する個人としては、まだ高価なのですが、便利な分、どんどんリーズナブルになっていくことを期待したいと思います。
皆様、どう思われますか?
今後の動向に、注目していきたいと思います。
Reference:
◆ Autonomous car insurance drives new opportunities
https://venturebeat.com/2021/08/23/autonomous-car-insurance-drives-new-opportunities/
◆ Self Driving Car Insurance: What You Need to Know
https://www.caranddriver.com/car-insurance/a35950852/self-driving-car-insurance/
◆ 「自動運転」とは何か? 【自律自動運転の未来 第2回】
https://bestcarweb.jp/news/257738?prd=1