Bay Area Tech Blog #40 ・・・序章(1):今抑えておきたいWeb3
・Web3とは
・Web2.0の失望から生まれたWeb3
・Web3の構成要素
Bay Area Tech Blog #41 ・・・序章(2):今抑えておきたいWeb3
・DeFi(分散金融)
・DAO(分散型自律組織)
・NFT(非代替トークン)
・おわりに
※ 長文になってしまったため、2つのニュースレターに分割しました。
前半の #40 も含めてお読み頂ければ嬉しいです。
DeFi(分散型金融)
Web3のユースケースとして、最も経済インパクトを示しているのが「DeFi」であろう。従来の銀行や証券、保険会社などの金融機関を介在せず、スマートコントラクトに基づいて自律分散型で実行される金融サービス(DApps)である。
スマートコントラクトにロックされた合計TVL(Total Value Locked)は、2021年10月のピーク時には一時1,900億ドル以上まで急成長した。利回りの良いDeFiサービスを利用して保有する暗号資産でお金を稼ぐ「イールドファーマー」が急増した。
また、DeFiは「マネー・レゴ」とも言われ、個々のDeFiアプリケーションをレゴを組み合わせるように、新たな金融サービスの作り出す「コンポーザビリティ(構成可能性)」という特徴を持っており、Web3の文脈において重要なキーワードになっている。さらに、DeFiの特徴は以下の通りです。
中央集権的な管理者は存在せず、金融取引には匿名で誰でも参加可能です。口座開設のために勤務先や年収、免許証などの証明書を提示し、個人情報や信用情報を審査されることはありません。
また、米国でも銀行口座を持てない人達が一定数存在し、発展途上国においては、その潜在的人数は計り知れません。インターネットに接続して暗号通貨ウォレットさえ作れれば、これまで口座を持てなかった人達にも、平等に投資や資産運用の機会が与えられることになる。
匿名の取引に不安を感じる方もいるかもしれないが、そこにはブロックチェーンの持つ透明性が機能している。取引履歴(トランザクション)は全てブロックチェーン上に記録されており、全てが公開されている。
2016年に45億ドル相当のビットコインがハッキングされた事件の犯人が最近になって逮捕された。これは、FBIが取引のトランザクションを綿密に追跡捜査した結果なのだ。つまり、ブロックチェーンの持つ透明性と検証可能性により、安全は確保されているというメッセージなのだ。既存の金融サービスと比較して、その柔軟性と高速性の違いは大きい。
時間や場所に捉われずに国境を越えた送金や資産移動が容易に可能であり、高い手数料を払い、管理者に申請許可を求め、入出庫処理に長時間を要するということはありません。金利や報酬は、最短で15秒(Ethereumの確定時間)ごとに更新され、その利回りも既存金融よりも遥かに高いものになっている。
DEX(分散型取引所)
暗号資産が盛り上がっている実例として、冒頭に暗号通貨取引所のCoinbaseが上場したことを紹介した。実はCoinbaseは、DeFiとは異なる。Coinbase やBinanceは、CEX(中央集権型取引所)と呼ばれ、伝統的な証券取引所と同様のモデルで暗号通貨取引を行う会社である。
これに対して、Uniswapに代表されるプロジェクト(会社ではないのでこう呼ぶ)が DEX(分散型取引所)であり、中央集権型の運営者は存在しておらず、スマートコントラクトによって自律的に多数の暗号通貨の取引を行っている。DEXもまたオープンソースで作られているため、誰でもコードをコピーして独自の取引所を開設することさえできてしまう。実際、Uniswapをコピー(厳密にはフォーク:分岐)してSushiswap が誕生している。
DEXのUniswapは、AMA(自動マーケットメーカー:Automated Market Maker)という新しい取引メカニズムを採用して大きく成長した。旧来の取引システムは、売り注文と買い注文の価格が一致した場合に成立するオーダーブック方式でした。
AMAの場合は、取引ユーザーは流動性プールに資金をプールし、トークンの数(需要と供給)に応じて調整された価格で取引を行う。オーダーブック方式のように、取引を成立させるために一致する買い手と売り手の出現を待つ必要がなく、即座に取引が成立する。また、流動性プールに資金を投入する流動性供給者(LP)には、資金を提供する代わりに、報酬として取引手数料とトークンを受け取れるインセンティブが与えられている。
レンディング(分散型貸付サービス)
DeFiの代表的なサービスで、暗号通貨の貸し借りをスマートコントラクトによって行う。銀行の預金口座にお金を預けて金利を得るのと同様に、貸し手は暗号通貨を預け入れる(ロックする)と金利が得られ、借り手は利息を払うという仕組みです。既存の銀行にお金を預けた場合の預金金利は、普通預金で平均0.001%と極めて低金利。
しかし、レンディングでは暗号通貨(トークン)によって金利(APY)が大きく異なるものの、通貨価格の変動リスクを考慮しても、既存銀行に預けるより遥かに高い金利が得られる。
Compoundは、レンディングサービスを提供する先駆けで、2020年の夏に人気を博し「DeFi Summer」と呼ばれる現象を作った。これは、プロジェクトの開発や運営の意思決定に関わる権利を持つガバナンストークン(COMP)を配布したところ、このトークン自体に価格が付いて高騰したためだ。これ以降のプロジェクトでは、金利だけでなく、ガバナンストークンの値上がりに注目が集まるようになった。
GameFi(ゲーム+DeFi)
ブロックチェーン上に構築されたゲームに世界中が熱狂している。従来のゲームとは大きく異なるを点がいくつかある。
ゲームをするためにプレイヤーは NFT(非代替トークン)を所有し、ゲーム内ではDeFiと同様の暗号資産の取引や金銭的インセンティブを発生させる。表面的にはゲームに見えるが、その中身はまさにDeFiそのもので、ゲームをするだけで稼げるという意味で「Play-to-Earn」(P2E:遊んで稼ぐ)と呼ばれる。
Axie Infinity はその代表格で、ピーク時には1日200万人以上がプレイし、パンデミックで仕事を失った発展途上国の人々は、家族総出でゲームをプレイして生計を立てるという現象まで発生した。
Axie Infinityは、AxieというNFTキャラクター を購入し、収集、育成、繁殖、バトルなどを通じて、ゲーム内トークン(AXS、SLP) を報酬として獲得する。
ゲームを始めるには、NFTであるAxieを3体購入する必要がある。その特性や評価によって資産価値は異なるが、一時1体あたり$200以上したため、この初期投資が参加のハードルを上げると考えられた。しかし、複数キャラクターを保有している人が一定利率で貸し出すという「スカラー制度」を生み出したことで、発展途上国で広がる結果となった。
プレイヤーは自分の保有するトークンを使って、他の暗号資産と交換したり、貸し付け、利息、その他の報酬を得ることが出来る。従来のゲーム内課金のようにゲーム会社に金銭を支払うだけの行為とは全く異なるモデルである。
DAO(分散型自律組織)
Web2の失望からWeb3が発展しつつあるように、プラットフォーマーに貢献しているにも関わらず、正当な評価や金銭的リターンが得られないという不合理な社会システムが大きく変わろうとしている。社会システムの変化に応じた新たな組織やコミュニティのあり方が求められており、それを体現するのがDAOであり、実験的な形で様々な試みが始まっている。
DAOとは、組織の意思決定を企業のトップや取締会が行うのとは異なり、コミュニティに参加する利害関係を持つ全てのステークホルダーに意思決定権が与えられ、貢献度に応じた権限や報酬の配分がスマートコントラクトを通じて自律的に行われる。
プロジェクトの資金調達、コミュニティの統治、価値の共有を行うために、プロジェクトへの貢献度や投資額に応じたガバナンストークンが発行される。トークンの保有者は、提案や投票などの意思決定に関与できる。
DAOは、ブロックチェーン上で運営されるため、すべての行動や資金調達の状況は誰でも閲覧可能で、従来の企業よりも透明性が高い。また、議論や情報交換もDiscordサーバー上でオープンに行われる。
DAOへの参加は、中央集権的に誰かの承認を得る必要はなく、誰でも自由に参加可能である。
DAOのトークン保有者は、企業における株式保有者に近いが、企業の製品購入者やサービス利用者は必ずしも株式保有者とは限らない。トークン保有者の多くはサービスの利用者であると同時にそのサービスの一部保有者となる。
DAO参加者の多くは匿名(偽名)で、プロジェクトごとに求められるスキルや貢献度は異なり、流動性も高い。
プロトコルDAO(Protocol DAO)
DAOの具体例としては、先述したDeFiプロジェクトがProtocol DAO と分類され、最も成熟している分野だ。DeFiプロトコルの管理やメカニズムの変更などがトークン保有者によって提案、投票、実装される。
Uniswap、Sushiswap、Compund、MakerDAO
投資DAO(Investment DAO)
特定のプロジェクトに共同出資することを目的とした営利目的のDAOで、FlamingoDAO は高価なNFT作品を共同購入し、将来のNFT価値の上昇を目指す。
実際、Flaming DAOは、CryptoPunkのピクセルアートを約761,889ドル(605 ETH)で購入するなどしている。その他にも、米国憲法の原本を落札することを目的としたConstitutionDAO、NBAチームを所有しようとするKrause Houseなど、ユニークなDAOも存在する。
サービスDAO(Service DAO)
多くの暗号通貨が発行され、プロジェクトが立ち上がる度に、プロジェクトの運営に必要なスキルや知識を持った人材が必要になるため、多様な人材供給を行うのがService DAOです。法律やクリエイティブ、マーケティング、財務管理などの様々な人材が参加して、トークンで報酬を得ている。Web3時代の仕事や雇用のあり方を模索しているようだ。
Raid Guild、MetaFactory、DAOhaus、LexDAO
ソーシャルDAO(Social DAO)
暗号資産にはまだ投機的な金融資本の色合いが強い中、ソーシャルDAOは文化的な社会資本に焦点を当てたDAOです。
FWB(Friends with Benefits)は、文化的なムーブメントを引き起こすためのコミュニティであり、様々なクリエイターを支援している。Discordでのチャットや物理的なミートアップを通じて、新しいアプリや飲料などを一緒に開発するなど、自らを「クリエイティブ・インキュベーター」と呼んでいる。
Seed Club、CabinDAO
日本におけるWeb3コミュニティはまだ少ないが、最近になって「和組DAO」が立ち上がった。日本からWeb3を盛り上げていきたいという想いが強く感じられ、日々活発な議論や情報交換がされている。
私はまだDiscordを傍観して勉強させてもらっているだけですが、何か貢献できる日が来ればと思っています。ぜひ皆さんもDiscordにアクセスしてみてください。
NFT(非代替トークン)
2021年最も話題を集めたのはNFTであり、市場全体の年間売上高は250億ドルにまで達した。Beepleのデジタルアートがクリスティーズで6,900万ドル(75億円)で落札されたことを皮切りに、アート分野でのNFTの人気が一気に広まった。
NFT(non fungible tokens)とは、スマートコントラクトにより、デジタル資産を唯一無のものと識別でき、真偽性(追跡・検証可能)を保証し、複製ができないようにしたものである。JPEGなどで作成されたデジタルアート作品は、簡単にデータとしてコピー可能だが、それがコピーしたデータなのかオリジナルデータなのかの真偽性を保証することによって、その出所や希少性の価値を高めて収益化が図れる。
絵画や画像、楽曲、動画などに限らず、デジタルデータであれば、あらゆるものがNFTとなるため、データの価値化が最も重要なポイントになるだろう。
また、NFTは投資や所有する側のメリットだけでなく、作品の転売時にアーティストやクリエータにも収益をもたらすことができる。作品の所有者を追跡できるため、アーティストやクリエータは直接ファンとの接点を持ったり、コミュニティを作るなどのメリットも享受できる。
NFTマーケットプレイス
NFT作品の売買を行う世界最大級のマーケットプレイスがOpenSeaである。2020年から1年で30,000%の売上増加。SNSのプロフィール画像にNFTを使うPFP(Profile picture)のプロジェクトが成長の要因となった。初めてNFTと紐づいたアート作品は、歴史的価値や希少性を示すものとして高額で取引された。Bored Ape Yacht Club (BAYC)、CryptoPunk、 Pudgy Penguins、Meebits
メタバース
今後、仮想空間内での経済圏が成長していくにつれ、デジタル・アイデンティティやデジタル資産の所有権を証明することが益々重要になってくる。
すでに Decentraland や Sandboxでは、ゲーム内のアイテムから不動産に至るまで、あらゆるものがNFT化されて大きな価値を生み出している。
Decentralandでは、仮想空間内の土地をNFTとして購入、所有できる。現実世界と同様に立地や広さ、市場動向により不動産価格は変動し、売却や賃貸も可能だ。Republic Realmは、人が集まる好立地の土地を購入し、バーチャルモールを作ってそこに入居する店舗へリースするような現実世界のディベロッパーと同じようなビジネスを展開している。
デジタルツインNFT
デジタル・ツインNFTとは、物理的なアイテムの所有権に紐づいたNFTを表す。物理アイテムが本物かどうかの真正証明、所有権、転売履歴などをNFTが示す。偽造品に悩ませられるブランド品には重要な役割を持つ。さらに別の付加価値を提供することも可能になりそうだ。
LVMH、プラダ、カルティエなどは、実在する高級品の所有権をトークン化するためにAuraと提携し、現在の真正品証明書をNFTに置き換えることを目指している。
ナイキは、CryptoKicksと呼ばれるブロックチェーンを使った独自の認証システムの特許を取得している。本物の靴を購入すると所有権を示すデジタルシューズが割り当てられ、それをNFTゲームのように靴の繁殖、売買取引ができるようだ。
ヘルスケアとNFT
データを価値のある資産とすることは誰もが目指すところだが、自らの個人データを収益化するのは倫理的、心理的にもハードルが高い。
しかし、Aimedisは患者の医療データをNFT化し、製薬会社に販売したりして収益化するマーケットプレイスを立ち上げた。医療分野における処方箋の取得や医療情報、プライバシー問題など、ブロックチェーンの信頼性や透明性と親和性が高いことから期待も広がる。
NFTの適用用途は広く、DAOなどのコミュニティとの連携、リアルとバーチャルの融合、Web3世界ではまだまだ新しいアイデアが誕生する可能性もある。
現在は、高額なNFTアートに注目が集まり、資本家と一般消費者との格差を際立たせており、少し行きすぎた感は否めない。但し、NFTを担保としたローンなどの金融商品、1つのNFTを断片化して低価格にした購入方法なども登場してきており、市場の成熟化が待たれるところだ。
さいごに
Web3に関わる基本的な要素とユースケースの一部をまとめてみました。まだ十分に理解できていないことや知らないことが山のようにあり、知れば知るほど沼にはまっていくような状態です。クリプト業界特有の用語や毎日のように更新されるニュースをキャッチアップするのは大変です。もし、誤った記載や内容があれば、ぜひご指摘ください。
なお、今私がなぜWeb3にとても興奮しているかといえば、同世代や古くからテック業界にいる多くの人たちが語っているように、1990年代初めのインターネット黎明期と同じ雰囲気を感じるからだと思います。
ブロックチェーンが一部のエンジニアのものだったところから、非中央集権や民主化といった理念をたずさえ、Web3という言葉の元で一般化しようとしています。技術やビジネスモデルの成熟化には、もう少し時間がかかるかもしれませんが、だからこそこの時期に我々が何か出来ないか模索していきたいと思います。
最後になりますが、このブログを書いている途中にも Web3 Foundation から出資を受けた日本人として期待されているAstar Networkの渡辺創太氏が書いたnoteで、暗号資産に関する日本の税制の問題を知りました。日本のWeb3での立ち遅れだけでなく、人材の流出にも危機感を覚えましたが、間もなくして河野太郎氏が「自民党内で、税制改正すべく議論始まってます」とツイートしていました。
このダイナミズムもまた興奮する要因かもしれません。今後の日本の未来に期待していきたいです。
ここまででお読み頂きありがとうございます。
前半部分 #40 ・・序章(1)もありますので、こちらもぜひお読みください。
Bay Area Tech Blog #40 ・・・序章(1):今抑えておきたいWeb3
・Web3とは
・Web2.0の失望から生まれたWeb3
・Web3の構成要素
Bay Area Tech Blog #41 ・・・序章(2):今抑えておきたいWeb3
・DeFi(分散金融)
・DAO(分散型自律組織)
・NFT(非代替トークン)
・おわりに