仮想通貨やNFTなど話題のブロックチェーンですが、企業にはどう活用できるのでしょうか?企業がブロックチェーンを活用した事例から、なぜブロックチェーンが必要だったのか、また関連するブロックチェーン技術について紹介します。
以前のTech Blog #51「Blockchainを一から解説します」を合わせて読んでいただけますとより理解が深まります。
この事例をきっかけにみなさまから、ブロックチェーンを使ってこんなことができるのでは!?と言ったアイデアがありましたら共有いただけますと幸いです。
ぜひ一緒にトライしてみましょう!
ACRE Africa が提供する保険基盤の事例
課題
ケニアの農家は、他の地域と同様、自分たちではコントロールできない多くのリスクに直面しています。悪天候 、疫病、干ばつなどです。多くの農家は、こうしたリス クを軽減するために、伝統的な損害賠償ベースの保険に頼ってきました。
しかし、この保険は高価で面倒なものでした。保険金請求は現地にいる査定員によって算定され 、意思決定プロセスは不透明なものになりがちでした。このため、保険金の支払いまでに長い時間がかかることがありました。有効な保険金請求を行った農家は 、通常、生育期が終わってから保険金支払いのために最長で3カ月も待たなければならず、その結果、農家の投資能力に影響を与える可能性がありました。
解決策
ブロックチェーンのネットワークの上に、クレーム処理を管理するアプリケーションを作成しました。衛星を利用した気象データーベースを元にして、あらかじめ定義された事象の発生を監視しており、特定の事象に合致すると保険金が支払われる仕組みです。
今までの保険は、実際に発生した損失を補償していました。査定員の裁量による保険監査の状況はブラックボックス化されていましたが、ブロックチェーンにより明確な定義によって判断し、公開された監査証跡が確認できるため保険商品に対する信頼性が増しました。また契約から保険金の支払いが自動化されたことにより、保険証書の発行を安価に提供できるようになりました。
これにより、アフリカにおける農業保険の普及率が1%未満にとどまっている状況を打破し、農業の利用効率を上げることに繋がると期待されています。
なぜブロックチェーンでなければならなかったのか
ブロックチェーンが作る監査証跡
ブロックチェーンが使われている1つ目の理由は、耐改ざん性や透明性からなる堅牢なセキュリティです。これを利用して契約の履歴、どの気象条件に合致したことによりいくらの支払いがなされたかなどの監査証跡を作ることができ、それを公開することで、保険契約者からの信頼を得ることができます。
ブロックチェーンには、パブリック型とプライベート型があります。
パブリック型は中央に管理者がおらず、不特定多数のユーザによって管理されているブロックチェーンです。取引の仲介者がおらず、透明性のあるデータがインターネット上に公開されています。メリットは、中央機関が存在しないことにより公共性や真正性が守られるため、改ざんや契約が履行されないリスクがありません。一方で取引の承認に時間がかかります。暗号資産の多くはこのパブリック型で運用されています。
プライベート型は単一の組織によって管理されているブロックチェーンです。ネットワークへの参加も取引を承認するのも管理者の許可制になっています。よって迅速で効率的に承認を行うことができますが、中央管理者によるデータの改ざんの可能性や契約が履行されないリスクがあります。
ACRE アフリカの事例は、顧客が購入時にサインアップした契約が、支払い時に使用される契約と同じであることを公に証明したかった、すなわち保険会社や他の誰も変更していないことを証明したかったため、パブリック型のブロックチェーン上にアプリケーションを構築しています。監査証跡はハッシュとして記載されているため、非公開です。自身の内容を確認するためには契約時に作成された秘密鍵を利用することで検査することができます。
スマートコントラクト
ブロックチェーンが使われている理由2つ目は、スマートコントラクトです。
ビットコインのブロックチェーンが生まれた後に、イーサリアムのブロックチェーンが生まれました。イーサリアムの主要な目的は、デジタル通貨の決済ネットワークになることではなく、DApp(decentralized application)が動く基盤になることでした。
通常のアプリは、特定の開発者が販売したりWeb上で運営管理したりします。しかし、DAppは特定の管理者が存在せず、複数のデバイスで分散管理され、基盤となる暗号資産を購入すればだれでも利用可能です。すべてのトランザクション(取引)は、ブロックチェーン上に記録され、一旦デプロイされると管理者すべての合意がなければ書き替えできないため、対改ざん性に優れています。
ユーザーにとっては、アプリケーションの開発者が使用状況などをコントロールできないこと、例えば、分散型SNSアプリの開発者は、投稿を削除したり、ユーザーを排除できる方法を持たず、さらにアプリは自律的に動作するため、ユーザーデータを誰かに販売することもできないといった安心感を得ることに繋がります。
このDAppのビジネスロジック(システムにおける実際の処理を行う部分)で使われている変更できないプログラムコードが「スマートコントラクト」です。
スマートコントラクトとは、ブロックチェーンシステム上で、規定のルールに従ってトランザクション(処理)や外部情報をトリガーに実行されるプログラムを指します。
ACRE アフリカの事例は、気象情報をトリガーにして、スマートコントラクトが誰にお金を払えるのか、払えないのかを決め、スマートコントラクト(契約の自動化)の名前の通り自動で契約を実行することができたのです。
トリガーにしている気象情報は外部のデータソースとなります。イーサリアムのネットワークと外部のデータソースは分離されているため、橋渡しする役割が必要になり、オラクルと呼ばれています。
オラクルは、オフチェーンソースからデータを収集し、署名されたメッセージ付きでデータをオンチェーンに転送、データをスマートコントラクトのストレージに入れることでデータソースを利用可能な状態にします。
スマートコントラクトが、実世界のイベントやデータに基づいて契約関係を執行できるようにすることで、その適用範囲は劇的に広がります。しかし、これはイーサリアムのセキュリティモデルに外的なリスクをもたらす可能性も含みます。悪意を持った保険申請者が気象データを改ざんして不正に保険金を得ることも可能になってしまうのです。
そこで、オラクルは照会するデータソースは権威(大学や政府機関などの)があり信頼に足るものを利用し、またデータ転送中に改ざんされないよう、データの完全性を検証する手法を用意しています。
まとめ
ブロックチェーンが効率化やコスト削減だけでなく、ブラックボックス化したプロセスの信頼性を高め、製品の魅力を向上させるために利用できることを説明しました。
キーワードはパブリック型のブロックチェーンとスマートコントラクトです。
まず、ブロックチェーンのスマートコントラクトを使った自動化により、保険会社のコストが削減されました。そのため、同社の顧客にとって手頃な価格でありながら、財務的に存続可能なものとなりました。
そして、パブリック型ブロックチェーンを使った一般にアクセス可能な監査証跡を通じて 信頼を提供することで、従来の方法では達成できなかった「保険に入る」という文化を広げることに成功しました。
カリスマのことば
“We have elected to put our money and faith in a mathematical framework that is free of politics and human error.”
我々は、政治だったり人為的なミスが全く無い「数学的な枠組み」に、お金と信用を置くことにした。-テイラー・ウィンクルボス、Winklevoss Capital設立者、Facebook共同作成者
参照リンク
https://acreafrica.com/reimagining-agriculture-insurance-using-blockchain-technology/