Weekly Newsletter #198
Amazonの新AIエージェントがショッピング体験の未来を作る/ Anthropic、新AIモデルで自動化タスクのデモを実施/ Microsoft AI躍進の財務上の立役者エイミー・フッド
10月31日はハロウィンでした。
ご存じのとおり、子供たちが仮装をしてお菓子をもらいに家々を回るお祭りです。ただ、どの家でもお菓子を配っているわけではないため、配っている家では、わかりやすいようにハロウィンの飾り付けをし、寒い中、家主も仮装して外でお菓子を配っていたりします。より開放的な家庭では、危険だと言われるアメリカで、見知らぬ家族をリビングに通してお菓子を渡しており、その光景に驚きとともに温かい雰囲気を感じました。私たち夫婦も、話すガイコツの飾りに興奮して見ていたところ、「カモーン!」と声をかけられましたが、さすがに大人だけだったので遠慮しました。
ベイエリアで有名なハロウィンスポットの一つに、スティーブ・ジョブズ邸の周辺があります。マリッサ・メイヤーのお宅もこの近くにあり、そこで大きなぬいぐるみを配っていることでも知られています。
AmazonのAIエージェントがショッピング体験の未来を作る
最初は先日NOSUSAが主催したイベントIMPACTでも取り上げたニュースから参りましょう。
Amazonは、同社が保有する膨大な独自データを慎重にキュレーションし、商業的な目的に特化したAIモデルを開発・微調整しています。Amazonの大規模言語モデル「Rufus」は、「数千億のパラメーター」を持ち、これにより強力な情報処理能力と高精度の予測が可能です。AmazonのAIエキスパートであるChilimbi氏は、AmazonがMetaの最大モデル(4,050億パラメーター)に匹敵する、またはそれを超えるモデルをトレーニングしていることを認めました。
「Rufus」はユーザーのショッピング体験を革新するために設計されており、ユーザーが商品に関する質問をすると、即座に回答したり、個別の嗜好に基づいておすすめの商品を提示することができます。たとえば、キャンプ旅行の準備で必要な商品をすべて購入する場合、将来的にはエージェントが自動でアイテムをカートに追加し、予算内で完結させることも可能になるかもしれないそうです。Amazonのシニア製品マネージャーであるBrett Canfieldは、「慣れていない商品カテゴリではオプションや機能を理解するのに時間がかかるが、Rufusによってこのプロセスが大幅に簡素化される」と述べています。
Rufusを使ってみました。少し昔のドラマ「Big Bang Theory」が見たくなり、「Season 2を安く見る方法はあるか?」と尋ねてみました。すると、Rufusは「Big Bang Theory」のボードゲームやキャラクター人形をおすすめしてくれた上に、「ストリーミングなのかビデオなのかもっと詳しく言ってくれないと」と怒られてしまいました。危うくAIとケンカになりそうでした(笑)
Anthropic、新AIモデルで自動化タスクのデモを実施
こちらもIMPACTでご紹介したニュースです。
Anthropicは、強力なマルチモーダル大規模言語モデル「Claude 3.5 Sonnet」のAPIを通じてエージェント機能を利用できるようにし、複雑なタスクの自動化に向けた新たな可能性を提供しています。「Claude 3.5 Sonnet」のエージェント機能は、ユーザーのコンピューター上でのタスク実行をサポートし、複雑なプロンプトに応じて実際のアクションを自動化できます。たとえば、デモでは「友達とゴールデンゲートブリッジで日の出を見る計画を立てる」という指示に応じてChromeブラウザを開き、最適な視聴スポットや時間をGoogleで検索したり、カレンダーアプリでイベントを作成し、友人と共有するなど、情報収集からスケジュール作成までを自動で行いました。
別のデモでは、ウェブサイトの構築を指示され、ClaudeがVisual Studio Codeを使用してウェブサイトを構築し、テキスト端末でWebサーバーを立ち上げてサイトをテストしました。ウェブサイトは、1990年代風のランディングページとして仕上がりました。さらに、ユーザーがサイトの修正を求めると、Claudeはエディターに戻り、該当するコードを特定して修正を実行しました。
AnthropicのClaudeシリーズは、ユーザーの生産性向上を支援する次世代AIエージェントとして期待されており、複雑なタスクの自動化を可能にする「Claude 3.5 Sonnet」と、軽量なアプリケーション向けの「Claude 3.5 Haiku」により、多様なニーズに対応するモデル展開が進んでいます。
特に2つ目のデモには驚きました。数年前、当社でも作成したコードを自動でテストするアプリを社内で作ったことがありましたが、データの流れや連携が非常に複雑で、私はついていけず、ただ横で見ているだけでした。それをAIが自動で作成してくれるのだとしたら、本当に文明はここまで進化したのかと感動します。しかも、ちょっとダサい1990年代風のデザインを作ってから直すあたりも、なんだかおしゃれですよね。
Microsoft AI躍進の財務上の立役者エイミー・フッド
MicrosoftのCFOエイミー・フッドは、AI分野での数百億ドル規模の支出を厳密に管理し、プロジェクトの進捗状況やチップの注文状況、新しいデータセンターの建設、AIソフトウェアの開発・販売の進行状況を毎日のように監視しています。非技術者ながらも、彼女の判断はMicrosoft内で非常に重要視され、CEOのサティヤ・ナデラのビジョンに実用的なバランスを提供する存在です。
また、事業計画に対しても慎重かつ現実的な視点を持っています。たとえば2014年、Microsoftが消費者市場向けに携帯電話アプリ会社TrueCallerの買収を検討した際、彼女は市場への疑念からこの提案を却下しました。さらに、AmazonがAlexaデジタルアシスタントを開発し始めた頃、Microsoftでも同様のプロジェクトが浮上しましたが、市場規模が投資に見合わないと判断し、この計画も中止させました。こうした判断力により、Microsoftはコストを抑えつつも、戦略的に重要な分野への投資を継続できる体制を維持しています。2016年のLinkedIn買収交渉では、Salesforceとの競争が激化する中、ナデラに最適価格の指示を出し、取締役会に価値を説明すると約束しました。この結果、262億ドルでの買収が実現。その後も、GitHubやActivision Blizzardなど大規模な買収を支えています。
AI分野でも、2019年のOpenAIへの10億ドル投資を支持し、現在のChatGPTの開発へと繋げています。2022年にはBingにAI技術を統合し、AI戦略をさらに強化しています。AI関連の支出が増加している中でも、Microsoftの粗利益率は直近の四半期でわずか2%減少に留まり、コスト管理の効果が表れています。フッドは、AI技術が業務効率や価値向上に具体的に寄与する必要があると述べ、実用性を重視した投資を続けています。
収支を四半期ごとではなく、毎日のように監視する—厳しく聞こえる話ではありますが、こうした姿勢があるからこそ、強いMicrosoftが存在するのだと実感できる記事です。しかも、エンジニア出身ではなく、ゴールドマン・サックスから転職し、CFOにまで上り詰めた彼女のキャリアには、サクセスストーリーとしても心を打たれるものがあります。
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