Weekly Newsletter #244
2025年データ侵害(Data Breach)リストが更新。教訓は「侵入は防げない」前提の対応力/スイス通信大手Swisscom、「自律型ネットワーク」導入を加速。B2Bサービスの効率化とコスト削減へ/AIの「脳」を解明するヒント? ニューラルネットは「暗記」と「問題解決」を別経路で処理していた
今週は、日本本社から十数名のエンジニアの皆さんが訪米され、各種ネットワーク系ベンダへの訪問ツアーを実施しました。
途中で立ち寄ったサンタナロウは、すでにクリスマスのデコレーションが施され、夜にはイルミネーションが輝いていて、一足早くホリデーシーズンの雰囲気を味わうことができました。一緒に各訪問先を回ってくださったSEの皆さま、本当にお疲れさまでした。
また、来週末はいよいよ感謝祭(Thanksgiving)を迎えます。ベイエリア全体がホリデーシーズン特有の高揚感とあわただしさに包まれつつあり、サンフランシスコ・ダウンタウンでは、ひと足早くホリデーマーケットやアイスリンクもオープンし、人々は束の間の穏やかな気候と街のにぎわいを楽しんでいます。
それでは今週も、シリコンバレーの熱気と現地ならではのリアルな情報をお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
Weekly Newsletter #243:自律ネットワークの夢、いまどの辺?/需要を“自ら創る”投資:NVIDIA×Poolside/その通知、本当に本人?――Teams脆弱性で広がる“社内なりすまし”の罠
Weekly Newsletter #242: スタートアップバトルフィールドの頂点に立ったGlīd の物語と革新的技術 - $24M を獲得したMem0 の長期記憶とデータ主権のアプローチとは? Google Cloud レポから読み解くAI インフラの実情 - 生成AI 時代の成長戦略と基盤設計の方向性を読み解きます。
IMPACT 2025 が今年も開催!
2025年データ侵害(Data Breach)リストが更新。教訓は「侵入は防げない」前提の対応力
photo: O-DAN
テクノロジーメディアのTech.coが、今年(2025年)に発生した主要なデータ侵害インシデントのリストを更新し、11月10日付で公開しました。このリストは、サイバーセキュリティの脅威がいかに広範かつ巧妙になっているかを改めて浮き彫りにしています。リストには、日本の日経(Nikkei)の事例や、人気のチャットプラットフォームであるDiscordなど、今年世間を騒がせた多くの事例が含まれています。
例えば、Discordのケースでは、同社が直接攻撃されたのではなく、利用していたサードパーティの顧客サービスプロバイダーが侵害されるという「サプライチェーン攻撃」が原因でした。また、日経のケースでは、社内コミュニケーションツールであるSlackが不正アクセスの起点となった可能性が報じられています。これらは、企業の防御壁の内側(信頼されたサードパーティや内部ツール)が狙われる、現代の攻撃トレンドを象徴する事例です。
このレポートから得られる最大の教訓は、もはや「完璧な防御は不可能である」という現実です。AIを活用したフィッシングメール、本物と見分けがつかない「ディープフェイク」による音声詐欺(Vishing)など、攻撃は人間が気づくのが困難なレベルに達しています。
もちろん従業員教育や多要素認証(MFA)は重要ですが、「騙されるのはある程度仕方のないこと」であり、「侵入は起こり得るもの」という前提(Assume Breach)に立つことが、今や不可欠となっています。本当に重要なのは、その後の対応(インシデント・レスポンス)です。いかに迅速に侵入を検知し、攻撃者を隔離し、被害を最小限に抑えるか。そして、Discordや日経が今回行ったように、顧客や関係者に対してどれだけ透明性を持って情報開示ができるか。企業のセキュリティ体制の真価は、インシデント発生「後」の対応力によって測られる時代になっています。
スイス通信大手Swisscom、「自律型ネットワーク」導入を加速。B2Bサービスの効率化とコスト削減へ
Photo: 筆者が撮影
通信業界の長年の夢である「Autonomous Networking(自律型ネットワーク)」の実現に向けた動きが、世界的に加速しています。5G、IoT、クラウドサービスの普及に伴い、ネットワークの複雑性は人手による運用の限界を超えつつあり、近年、世界中の多くの大手テレコムキャリアがAIを活用したネットワーク自動化の具体的な実例を発表し始めています。
こうした潮流の中、スイスの大手通信事業者であるSwisscomは11月11日、米国のソフトウェアプロバイダーNetcracker Technologyとのパートナーシップを拡大し、B2B(法人向け)サービスのIT基盤を刷新すると発表しました。これは、トレンドが単なる概念実証(PoC)ではなく、実際のビジネス運用フェーズに入ってきたことを示す好例と言えます。
Swisscomは、Netcrackerのドメイン・オーケストレーション・プラットフォームをB2Bサービス(特にBusiness WAN)の中核に据えることで、複数のネットワークドメインにまたがる複雑なプロセスを自動化します。これにより、法人顧客向けの新しいネットワークサービスを市場に投入する時間を大幅に短縮し、同時に運用コストの削減とネットワークの安定性向上を図るとしています。
この取り組みのもう一つの重要な点は、業界標準であるTM Forumの「Open Digital Architecture (ODA)」に準拠していることです。これは、特定のベンダーの技術に縛られることなく、将来的に異なるシステムやAIツールを柔軟に統合していくための設計思想であり、Swisscomの長期的なデジタル変革戦略の核となっています。AIがネットワーク運用を「Self-driving(自動運転)」する未来は、スイスの地でも着実に進展しています。
AIの「脳」を解明するヒント? ニューラルネットは「暗記」と「問題解決」を別経路で処理していた
photo: O-DAN
日々進化を遂げるAI(人工知能)ですが、その「知能」がどのように機能しているのか、特に大規模言語モデル(LLM)の内部構造は「ブラックボックス」として、開発者自身にとっても完全には解明されていません。そんな中、AIの脳内を覗き込むような、非常に興味深い研究成果が11月10日に報じられました。
この研究によると、AIの「脳」であるニューラルネットワークは、人間が情報を処理する方法と驚くほど似た側面を持っている可能性が示唆されています。具体的には、AIがタスクを処理する際、「暗記(Memorization)」に依存する能力と、「問題解決(Problem-Solving)」(あるいは一般化)に依存する能力が、ネットワーク内の全く異なる経路(pathways)で処理されていることが特定されたのです。
研究で最も注目を集めたのは、「基本的な算術能力」がどの経路に存在するかを調べた点です。直感的には、足し算や引き算は「論理」や「問題解決」の経路にあると考えられます。しかし、研究の結果、AIの基本的な算術能力は「論理」経路ではなく、「暗記」経路に強く依存していることが判明しました。これは、AIが「2 + 2 = 4」という問題を「計算」しているのではなく、学習データから「2 + 2 = 4」というテキストパターンを「暗記」しているに過ぎない可能性を強く示唆しています。
この発見は、AIが時折見せる不可解な間違い(ハルシネーション)や、学習データにない新しい問題への対応力(一般化能力)の限界を説明する手がかりになるかもしれません。AIの「知能」が「暗記」ベースなのか、それとも真の「推論」を獲得しつつあるのか。AIの能力をより安全に、そして効果的に活用するために、この「ブラックボックス」の解明は、今後ますます重要な研究分野となっていきます。
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