Weekly Newsletter #257
AIインフラの勢力図が静かに変わり始めています。AIクラスターではEthernet がInfiniBandを上回る成長を見せ、新しいAIネットワーク企業が登場し、AI専用クラウドには数十億ドル規模の資金が流入しています。今回はGPU時代の次に来る「AIデータセンター競争」の最新動向をまとめました。
こんにちは、3月はRio がお届けします。
長く続いたベイエリアの雨がようやく上がり、オフィスの窓から久しぶりにくっきりとした山並みが見えるようになりました!
冬の間にたっぷりと水を蓄えた山々は、夏場の枯れた黄金色が嘘のように鮮やかな緑に覆われています。
カリフォルニアの山は夏になると黄金色に枯れてしまうので、この緑は春先だけの贅沢な景色ともいえます。
ちなみにこの緑の主役は、スペイン植民地時代に家畜と一緒に持ち込まれたヨーロッパ原産の一年草たちだそうです。
夏に枯れて黄金色になるのも彼らの仕業で、カリフォルニア州の愛称である”Golden State” の由来の一つがこの景色だそうです。
それでは今週も注目ニュースをお届けします。
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Ethernet が AI バックエンドネットワークで InfiniBand を2 倍超の差で圧倒 - 市場構造の転換が鮮明に
Photo: Unsplash(@jouwdan)
📚 トピックのポイントを 3 行で
AI クラスター向けEthernet スイッチ売上が前年比3倍超に急増し、 2025年通年でAI バックエンド向けスイッチ全体の3分の2超を占めたことが判明
Amazon、Microsoft、Meta、Oracle、xAI といった主要ハイパースケーラーが軒並みEthernet 採用に移行しており、ベンダー多様化とサプライチェーン制約への対応が主な要因とされている
2026年後半には1600Gbps 対応製品の出荷が始まる見通しで、さらなるシェア変動が予測されている
AI ネットワーキング市場に、長年くすぶり続けた構造変化がついに数字として現れました。
Dell’Oro Group が3月10日に発表したレポートによると、2025年通年および第4四半期において、AI クラスターのバックエンドネットワーク向けEthernet スイッチ売上が前年比で3倍以上に急増し、 AI クラスター向けデータセンタースイッチ全体の3分の2超を占めるに至ったとのことです。
InfiniBand も絶対値では伸びているものの、Ethernet の成長速度がそれを大きく上回る形となっています。
なぜ今、この転換が起きている?
大きな要因の一つはサプライチェーン制約です。
AI クラスターの規模が急拡大する中、特定ベンダーへの依存を避けたいという需要側の意向が、オープンエコシステムであるEthernet への移行を後押ししています。
Dell’Oro Group の副社長Sameh Boujelbene 氏は
AI クラスターの大型化とサプライチェーン制約が、ベンダー多様化つまりEthernet への需要を生んでいる
と述べており、現在Amazon、Microsoft、Meta、Oracle、xAI がいずれもEthernet を採用していると指摘しています。
ベンダー別のシェア動向も注目に値します。
2025年、Ethernet スイッチ市場でAI バックエンドネットワーク向けのシェア合計約 50% をNVIDIA とCelestica が分け合い、Arista Networks が3位につけました。
Cisco はハイパースケーラー向けの出荷加速が確認され、HPE/Juniper は新規顧客獲得に成功しています。
NVIDIA がEthernet スイッチ市場でも存在感を発揮している点は、同社が単なる GPU ベンダーからAI インフラ全体の提供者へと変貌を遂げていることを象徴しているといえます。
技術的な背景を整理すると、従来Ethernet はロス (パケットロス) が多く、レイテンシが高いという欠点からAI 学習クラスターには不向きとされてきました。
しかしUltra Ethernet Consortium (UEC) が 2025年に仕様バージョン1.0 を公開し、輻輳制御やQoS (Quality of Service: サービス品質) 機構が追加されたことで、RoCE (RDMA over Converged Ethernet: 低レイテンシEthernet 上でのリモートダイレクトメモリアクセス) を用いた Ethernet がInfiniBand と同等水準のパフォーマンスを実現できる環境が整ってきました。
Meta が24,000GPU 規模のLlama3 学習クラスターで RoCE ベースのEthernet とInfiniBand が同等性能であると検証済みであることも、業界への説得力となっています。
参考文献
Ethernet More Than Doubles Size of InfiniBand as the Leading Fabric for AI Scale-Out Networks in 2025 - Dell’Oro Group https://www.delloro.com/news/ethernet-more-than-doubles-size-of-infiniband-as-the-leading-fabric-for-ai-scale-out-networks-in-2025/
Ethernet groups keep 2026 focus on higher bandwidth, AI demands - Network World
https://www.networkworld.com/article/4113364/ethernet-groups-keep-2026-focus-on-higher-bandwidth-ai-demands.html
AI ネットワーキングスタートアップEridu がベールを脱ぐ - インターネットの父が挑む「ネットワーク再発明」
Photo: Unsplash(@nasa)
📚 トピックのポイントを 3 行で
PPP 共同発明者Drew Perkins が設立したEridu が$200M Series A を獲得し公開された
GPU 間通信を最適化する専用ASIC とスイッチを開発中で、光学接続をオンチップに置き換え低消費電力、低レイテンシを目指している
GPU 性能が年率約10 倍で向上する一方、従来スイッチは2~3年で2~3倍にとどまり、ネットワーク層のボトルネック解消が創業の出発点となっている
インターネットの父 と呼ばれる人物たちが次々とAI インフラの世界に戻ってきているようです。
3月10日、AI ネットワーキングスタートアップのEridu がステルス状態を脱し、$200M (約300億円: $1=150 円換算) という大型のSeries A 調達を発表しました。
ラウンドはSocratic Partners、著名VC のJohn Doerr、Matter Venture Partners らが主導し、累計調達額は$230M (約 345 億円) に達しています。
創業者兼CEO のDrew Perkins 氏は、ネットワーキングの歴史において繰り返しブレークスルーを生み出してきた人物です。
1980年代にTCP/IP の中核プロトコルであるPPP (Point-to-Point Protocol) を共同開発し、1999年には光スイッチ会社Lightera Networks を共同創業して Ciena に$500M 超で売却。
その後も光ネットワーク企業Infinera を共同設立し、同社は上場後に 2025年Nokia に$2.3B (約3,450 億円) で売収されています。
Eridu 創業の契機は、2023年2月の小規模カンファレンスでOpenAI CEO の Sam Altman と交わした対話でした。Altman 氏が
ChatGPT を可能にしたのは膨大な計算資源だ
と語ったとき、Perkins 氏はネットワーク層こそが次のボトルネックになると直感したといいます。
現在AI クラスターに必要なGPU は4,000 基規模から数百万基規模へと拡大しており、それぞれが高速かつ低レイテンシで通信し合う基盤の重要性は以前とは比べものにならないほど高まっています。
Eridu が取り組む技術的な挑戦の核心は、ASIC(特定用途向け集積回路) と呼ばれる専用チップの設計です。
Perkins 氏の言葉を借りれば「 GPU の計算性能とメモリ帯域は年率約 10 倍で向上しているのに、 Broadcom、 Marvell、 Cisco などが作る従来のスイッチは 2~3年で2~3倍程度の改善にとどまっている」という非対称な成長が問題の本質です。
Eridu はこの格差を埋めるべく、より多くのネットワーク機能をチップ上に集積し、光学接続(信頼性のボトルネックとなりがちな部分) を削減することで、消費電力・コスト・信頼性の 3 点を同時に改善しようとしています。
共同創業者のOmar Hassen 氏はBroadcom とMarvell でネットワークチップ設計のキャリアを積んだ人物であり、Perkins 氏の構想に技術面の裏付けを与えています。
現在の従業員は約100 名で、将来的にはAI データセンターの中でArista Networks が従来型データセンターで担っているような役割を担うシステムの提供を目指しています。
出資陣の顔ぶれも注目に値します。
Hudson River Trading、 Capricorn Investment Group (米大手投資ファンド) に加え、 TSMC の投資主体であるVentureTech Alliance、MediaTek、Bosch Ventures、TDK Ventures が参加しており、半導体製造の川上から資本が集まっていることが分かります。
AI クラスター向けネットワーキングの競争は今後ASIC レベルの設計力を持つスタートアップが既存ベンダーを脅かす局面へと移行しつつあるといえます。
Eridu のようなプレイヤーが実用製品を市場に投入する時期が近づくにつれ、従来のスイッチベンダー依存から脱却し、新たなエコシステムを見極める眼が重要になるかもしれません。
ディープな経験を持つ創業者が率いるスタートアップが、最大規模のデータセンター構築ブームの波に乗ろうとしている構図は、今後も注目し続ける価値があると感じました。
参考文献
AI network startup Eridu emerges from stealth with hefty $200M Series A - TechCrunch
https://techcrunch.com/2026/03/10/ai-network-startup-eridu-emerges-from-stealth-with-hefty-200m-series-a/
Nscale が欧州史上最大のSeries C として $2B を調達 - NVIDIA も出資、元Meta 幹部が取締役会に集結
Photo: Unsplash(@tvick)
📚 トピックのポイントを 3 行で
英国発AI インフラスタートアップNscale がSeries C で$2B (約 3,000 億円) を調達し、評価額$14.6B (約 2.2 兆円) で欧州史上最大のSeries C となった
NVIDIA、Dell、Nokia などそうそうたる顔ぶれが出資し、元Meta COO Sheryl Sandberg ら著名経営者3名が取締役会に就任した
OpenAI 向けStargate Norway で2026年末までに100,000GPU 稼働を計画、Microsoft との$14B パートナーシップも締結済みでIPO も視野に入れている
2024年に設立されたばかりの英国拠点のAI インフラスタートアップが、わずか2年足らずで欧州を代表する巨大資金調達を成し遂げました。
Nscale は3月9日、Series C として$2B (約 3,000 億円: $1=150 円換算) の調達完了を発表し、同ラウンドでの評価額は$14.6B (約 2.2 兆円) に達しています。
ラウンドはノルウェーの産業コングロマリットAker ASA と米国の投資会社8090 Industries が主導し、NVIDIA、Dell、Nokia、Citadel、Jane Street、Lenovo など多彩な顔ぶれが参加しました。
Nscale のCEO Josh Payne 氏は
これは人類史上最大のインフラ構築を主導するものだ
と述べており、同社の位置づけを
AI の上に乗るあらゆるものを支える基盤、超知性のエンジン
と表現しています。
この資金調達はシリーズ B (2025年9月の$1.1B) からわずか半年足らずでの実施であり、 AI インフラへの投資熱がいかに高まっているかを象徴しています。
また、株式による資金調達の累計額は45億ドル(約6,750億円) を超えています。
取締役会への就任者も業界を驚かせました。
元 Meta COO のSheryl Sandberg 氏はスタートアップ投資ファンドSandberg Bernthal Venture Partners の共同創業者として、テック企業のスケール経験を持ち込みます。
元英国副首相でMeta の元グローバルアフェアーズ担当社長Nick Clegg 氏は、欧州の規制環境や政策ネットワークの面で価値を発揮すると見られています。
元Yahoo 社長Susan Decker 氏はガバナンスと財務の知見を持ち込む形です。
創業 2年未満の企業がこれほど重厚な経営陣を集められた背景には、 AI インフラへの強烈な期待感があるといえるかもしれません。
Nscale のビジネスモデルはいわゆるネオクラウド と呼ばれるカテゴリーに位置します。
AWS、 Azure、 Google Cloud のような汎用クラウドとは異なり、AI トレーニング・推論・ HPC (High Performance Computing: 大規模で複雑な計算処理を高速に実行するための並列処理型コンピューティング技術) に特化したGPU-as-a-Service を提供します。
英国・米国・ノルウェー・ポルトガル・アイスランドにデータセンターを構え、垂直統合型のインフラ、GPU コンピュートとネットワーキングからデータサービス・オーケストレーションソフトウェアまでを自社で一体的に提供している点が特徴です。
特に注目に値するのがOpen AI によるStargate Norway プロジェクトです。
Aker ASA との合弁で進めてきた同プロジェクトを今回の調達と同時にNscale の完全子会社として取り込み、2026年末までに100,000 GPU の稼働を目指しています。
OpenAI が初期顧客として名を連ねており、規模感の大きさがうかがえます。
またMicrosoft との間に締結した$14B (約 2.1 兆円) の拡張パートナーシップは昨年秋に報じられており、主要ハイパースケーラーとの連携も着実に深まっています。
一方で、英紙Guardian 等はNscale や同様のネオクラウドについて AI 投資の実態が伴っているかという懐疑的な視点も報じており、約束されたスーパーコンピューターのサイトがまだ建設中であるという指摘もあります。
IPO を視野に入れている同社が実際の運用実績で投資家の期待に応えられるかが、今後の焦点となりそうです。
Nscale のようなネオクラウドプロバイダーの台頭は、 AI インフラの調達に多様な選択肢を提供しているように思います。
従来の大手クラウドだけでなく、AI に特化した専業インフラプロバイダーとの連携が現実的な選択肢として浮上してきているのではないでしょうか?
参考文献
Nscale Raises $2 Billion in Series C — the Largest in European History - Nscale https://www.nscale.com/press-releases/nscale-series-c
Sandberg, Clegg join Nscale board as this ‘Stargate Norway’ startup hits $14.6B valuation - TechCrunch
https://techcrunch.com/2026/03/09/sandberg-clegg-join-nscale-board-as-this-stargate-norway-startup-hits-14-6b-valuation/Brit rent-a-GPU biz Nscale picks up $2B, hires Nick Clegg - The Register https://www.theregister.com/2026/03/09/nscale_board_picks/
📎 番外編ショート: NVIDIA NVLink に挑む UALink スタートアップ Upscale AI - 2026年Q4 に製品出荷を目指す
AI アクセラレーター間の接続をオープン標準で実現しようとするスタートアップが静かに注目を集めています。
Upscale AI はUALink (Ultra Accelerator Link: AMD とBroadcom が中心となって策定した、AI アクセラレーター同士を高帯域・低レイテンシで接続するためのオープン業界標準) に基づくスイッチを開発中で、2026年Q4 の製品出荷を目標に掲げています。
$100M (約 150 億円) の初期調達を完了し、Juniper、Cisco、Palo Alto、Google、Meta 出身のエンジニアを含む 140 名体制でTSMC 製造の専用ASIC SkyHammer を開発中です。
UALink 仕様では最大1,024 GPU を単一のスケールアップシステムに接続でき、 NVIDIA のNVLink/NVSwitch が担ってきた役割をオープン標準で代替することを目指しています。
Alibaba、 Apple、 AWS、 Cisco、 Google、 HPE、 Intel、 Meta、 Microsoft も UALink コンソーシアムに参加しており、エコシステムの広がりも着実です。
ただしNVIDIA のNVLink は 2026年末時点で 576 GPU 接続に対応する見通しであり、技術競争は続きます。
NVIDIA 一強のインターコネクト市場にオープンな対抗軸が育ちつつある点は、今後の AI インフラ設計において重要な変数になりそうです。
参考文献
Upscale AI Eyes Late 2026 for Scale-Up UALink Switch - HPCwire https://www.hpcwire.com/2025/12/02/upscale-ai-eyes-late-2026-for-scale-up-ualink-switch/
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