Weekly newsletter #33
週末に開催されたG7の財務相会合にて、各国の企業収益に対して、少なくとも 15% の法人税を課す方向で合意したというニュースがありました。GAFAMなどのグローバル企業を対象に、利益率の10%を上回る部分の最低20%に課税が可能とする方針のようだ。各社にとっては増税になる可能性がありますが、これまで各国独自の課税ルールに苦労してきたため、この国際的な税制合意をおおむね歓迎しているようです。
このような国際協調の動きは、トランプ政権下ではほぼ前進することが無かったため、今は非常に加速しているように感じます。米国のパリ協定への復帰など、気候変動やエネルギー分野に関する動きも同様で、今回はまず最初にエネルギー分野の先進技術や国際協力のトピックスに取り上げてみました。
EUと Breakthrough Energy は10億ドルのクリーンテック投資で提携
EUとビルゲイツが設立した Breakthrough Energy は、クリーンテック分野への投資を目的とした提携を発表。5年間(2022-2026年)で総額10億ドルの資金を4つの分野「グリーン水素・持続可能な航空燃料・ダイレクトエアキャプチャー(大気中のCO2直接回収)・長期エネルギー貯蔵」へ投資していくという。
Breakthrough Energyは2015年にビルゲイツが設立し、2016年には環境・エネルギー問題に対してブレークスルーを起こすテクノロジーに投資する10億ドルのベンチャーファンド 「Breakthrough Energy Ventures」を立ち上げています。このファンドの注目すべき特徴は、大型の設備投資や中長期の研究開発が必要とされる分野であることを考慮し、20年間は投資収益を求めないというスタンスにあります。
さらに、これに参画している面々がこれまた凄い。ジェフ ベゾス、リチャード ブランソン、 ジャック・マー、リード・ホフマン(LinkedIn共同創設者)、マイケル・ブルームバーグなどの錚々たるメンバーです。このような人達だからこそ、短期的な収益を求めず、中長期的な投資が可能なのかもしれません。
すでに投資を受けている企業は、全個体電池、核融合炉、バイオ燃料、地熱発電、クリーン肥料、代替タンパク質源など、先進的な技術に取り組んでいるベンチャーばかりです。
Terra Power が次世代原子炉の実証プラントをワイオミング州に建設
ビルゲイツが会長を務める原子力ベンチャー Terra Power と西部6州に電力供給するパシフィコープ(ウォーレンバフェット率いるバークシャーハザウェイ傘下)は、ワイオミング州に次世代原子炉と言われるナトリウム冷却高速炉を建設すると発表した。
Terra Power の原子炉は、劣化ウランを燃料とする進行波炉(TWR)と呼ばれ、ウラン濃縮や再処理施設も必要なく核廃棄物を減らすことができ、約100年間燃料交換なしで稼働するという。日本は原子力分野で高い技術力を持つと言われるが、ビルゲイツとTerra Powerの幹部は過去に東芝を訪れてNDAを締結している。15年前にTerra Powerが設立され、プラント建設には7年を要するということで、やはり短期的に事が進む分野でないことが分かる。
米国議会は核融合エネルギーを支持する時が来ました
エネルギー問題を解消する未来の技術とされてきた「核融合炉」の実用化が、少しづつですが現実味を帯びてきたようです。核融合炉とは、人工太陽とも呼ばれ、太陽の内部で起こる核融合反応によって発せられる熱エネルギーを人工的に作り出すという物です。海水(に含まれる重水)を燃料とし、核分裂による原子力発電と比べて安全性は高く、発生する放射性廃棄物は低レベルのみです。米国は2025年までには予備設計の完了させ、2040年代までに実証プラントの建設を目指す。日本を含む35ヵ国が共同でフランスに建設を進めている世界最大の核融合実験炉「ITER」は73%まで進んでおり、2025年には運転開始される予定とのことです。国際協力の元で大きなゲームチェンジになることを期待したいですね。
世界最大の食肉加工業者へのランサムウェア攻撃で事業停止
世界最大の食肉加会社のJBSは、ランサムウェア攻撃により、米国、カナダ、オーストラリアの事業を停止した。先月コロニアルパイプラインがランサムウェア攻撃を受けて身代金を支払った事件(Weekly newsletter #30)があったばかりだ。FBIは、ロシアを拠点とするREvil (別名 Sodinokibi) という組織の犯行だと発表している。ロシアを拠点とした犯行組織は、ロシア政府が海外へのサイバー攻撃を取り締まらない事を理由に完全にビジネスモデル化しているようです。
Microsoft が ReFirm Labs を買収し、ファームウェア分析で IoT セキュリティを強化
Microsoftは、ファームウェア・セキュリティの ReFirm Labs を買収しました。様々なIoTデバイスを増え、サイバー攻撃の対象としてファームウェアが狙われるケースが増加してきています。Microsoftは、AzureへのセキュアなIoTデバイスの接続を目的として、Azure Defender for IoTへの統合を図っていくようです。
FireEyeは製品事業を売却して Mandiantソリューション事業へ集中
サイバーセキュリティ大手の FireEye は、製品事業をプライベートエクイティ企業の Symphony Technology Group に 12 億ドルで売却すると発表しました。同社はエンドポイントセキュリティを初めとする複数の製品群を持っていましたが、2014年に買収したMandiant が提供するインシデント調査対応やペネトレーションテスト(擬似攻撃や侵入テスト)などのソリューション事業に特化するという。元々のコア事業を手放し、買収した企業の事業を主軸にピボットするという異例の取引です。日本でも同社製品を導入している企業がそれなりにいますので、今後の対応が気になるところです。
IBMと英国政府は量子コンピューティング研究で提携
IBMと英国政府は、AIと量子コンピューティングの分野で提携し、5年間で2 億 9750 万ドルを投じて、生命科学から素材開発などの製造分野までの様々な技術開発を行うと発表。IBMは、5月末にイリノイ大学とも同様の共同研究への投資を行なっており、この分野へ注力している姿勢が見える。
また、日本でもメルカリが産学連携で「量子インターネットタスクフォース」を設立し、東芝が発起人となって「量子技術による新産業創出協議会」が設立されるなど、量子コンピュータに関連する話題が目に付いた。実用化までには数年掛かるとしても、基礎研究の段階から日本勢が存在感を発揮していくことを期待したい。
SoftBank が支援する Katerra が事業閉鎖へ
Katerraは、デジタル化により建築業界に変革を起こすスタートアップとして注目を集め、SoftbankのVision Fund などから20億ドルの多額の資金調達を行なっていましたが、倒産することになりました。WeWorkほど有名ではありませんが、Vision Fund の大型投資先として2018年のベンチャー投資額ランキングでは上位にいました。COVID-19の影響に加え、人件費や建築資材のコスト上昇などから資金繰りが厳しくなった模様です。
https://www.theinformation.com/articles/softbank-backed-katerra-to-shut-down