現在の成功しているビジネスモデルを見ると、その多くはプラットフォームビジネスである。ユニコーン企業(評価額10億ドル以上)のうち、60%〜70%がプラットフォームビジネスだと言われ、それはあらゆる市場に存在し、インターネットとデジタルテクノロジーの発達によってその価値を強固にしてきた。
ご承知の通り、GAFAはいわゆるプラットフォーマーである。彼らの成功の鍵は「プラットフォーム」というポジションを確立したことであり、「人や物が集まる価値を提供し、相互依存するグループ(消費者と販売者)間の取引を促進する」ビジネスモデルである。この価値を生み出した源泉は、「ネットワーク効果」を備えたコミュニティや市場(マーケットプレイス)を作り出したことにある。
GAFAは、過去に類を見ないほどに大成功したWeb2.0時代のビジネスモデルであり、今なおその存在感は揺るぎないものである。
では、今話題のWeb3の台頭は、そんなWeb2.0の怪物たちを駆逐するようなものになるのか。Web3の定義やビジネスモデルにまだ確固たるものがない現状において、それを語るのは少々早すぎる気がするが、Web2.0のプラットフォーマーが力を持ち過ぎたことに対する反発や問題が、Web3を加速させていることは事実であり、それぞれのビジネスモデルを対比して見ていくことには意義があると思う。
そこで、ネットワーク効果の視点から、企業やビジネスの成長を分析して投資判断するベンチャーキャピタル「NfX」のJames Currier氏と、同じくネットワーク効果に焦点を当てたコンサルタントSameer Singh氏らから見たWeb3モデルを解説した記事を引用し、Web3の可能性を探ってみることにする。
ネットワーク効果とは
まず、ネットワーク効果とは、どういうものなのか少し掘り下げていこう。
同じプラットフォームやサービスを利用するユーザが増加することによって、それ自体の効用や価値が高まる効果のことをいう。例えば、Eメールを使うユーザーが増えれば増えるほど、Eメールを送受信できる相手が増え、結果としてEメール自体の価値が高まるという現象が分かり易い。今やEメールアドレスを持っていないことのほうがデメリットや機会損失を生む状況になっている。
NfXの解説では、一口にネットワーク効果と言っても、5つのカテゴリに分類され13種類もの異なるタイプが存在すると言う。ここでは細かい解説は避けるが、それぞれの概略は次のとおりです。
- The Network Effects Manual: 13 Different Network Effects (and counting)
このネットワーク効果を最大限に発揮したのが、Facebook(Meta)と言われ、下記の6つのネットワーク効果を備えていると分析されている。また、ネットワーク効果と並行して、ブランド(Brand)、規模(Scale)、組み込み(Embed)という3つの「防御機能」も兼ね備えていた。これは、早期にブランディングを確立し、絶対的な規模のメリットを獲得、Facebook IDが他サービスで利用可能となって影響力を拡大し、潜在的な競合やユーザー減少への防御力を発揮した。いずれにしろ、複数のネットワーク効果と防御機能によって、同社が大きな成長を遂げたことは紛れもない事実である。
Web3におけるネットワーク効果
では、Web3のモデルは、成長を牽引するネットワーク効果を備えているのかという問いに対して、Web3を代表する例を取り上げ、その特性やどのようなネットワーク効果を持ち合わせているのかを解説しているSameer Singh氏の考察を引用し、一部自らの解釈と補足を加える。
- Crypto & NFTs: Network Effects in Web3
Ethereum
Web3の基盤となる「レイヤー1」ブロックチェーンのEthereumをネットワーク効果の視点で見てみると、大きく3つの異なる特徴が挙げられる。1
Ethereumは、相互接続されたコンピュータ・ノードで構成されており、ノードでは取引の検証(マイニング)と、その報酬としてETHトークンが発行されるという基本的な仕組みについて着目する。
報酬を求めてノードが増加することは、Ethereumの処理能力が高まり、チェーン全体としての価値が高まるという効果を得られる。一方で、マイニングをするノードが増えるということは、競争が激しくなって、ノードにとっては価値が下がることになる。
また、Ethereumはスケーラビリティについて技術的な課題を抱えており、トランザクションが増加しすぎると取引手数料(ガス代)が高くなり、処理時間が遅くなってしまう負のネットワーク効果を生むことになる。これは、電話網やブロードバンド回線のような物理ネットワークと同じ特性で、トラフィックが多すぎると速度や品質が低下するのと同じ現象である。
なお、この技術的な課題を以前より広く認識されており、この課題をクリアすべく、現在Ethereum2.0への移行の計画を進めている。Ethereumの重要な点は、スマートコントラクトが実行でき、DApps(分散アプリ)が作成できることであり、まさにプラットフォームとしての特性を備えている。しかし、Web2.0のiOSやWindowsのプラットフォームとは異なり、Ethereumはオープンアーキテクチャであり、ユーザーを囲い込むようなことは想定していない。したがって、様々なサービスやDAppsが増えると、その中から適切なものを見つけることは難しくなり、ネットワーク効果は弱まることになる。
また、保有しているETHトークンを売って別のトークンを購入し、別のチェーン(Ethereumと互換性のある)上のDAppsが利用可能なため、スイッチングコストも低く、防御機能は高くない。実際、SolanaやPolkadotなどの複数のレイヤー1プロトコルが台頭してきている。
Web3にとってコンポーザビリティ(構成可能性)は、分散型やオープン化を語るうえで非常に重要な要素です。オープンアーキテクチャのEthereumにとって、スイッチングコストが低く防御機能が弱いと先に書いたが、DAppsの開発側から見た場合には大きなメリットをもたらす。複数のチェーンに跨って、互換性のあるDAppsを展開したり、レゴブロックに例えられるように様々なDAppsやスマートコントラクトを組み合わせて、迅速に多くのサービスを展開することが可能だからだ。
Axie Infinity
EthereumのようなWeb3の基盤ではなく、DAppsやDeFiなどのもう少し具体的なサービスモデルにおけるネットワーク効果を見てみよう。昨年Play to Earn(遊んで稼ぐ)として、爆発的な人気を博したNFTゲームのAxie Infinity を例に取り上げる。2
Axie Infinityは、AxieというNFTキャラクター を購入し、収集、育成、繁殖、バトルなどを通じて、報酬としてゲーム内トークン(SLP) を獲得するゲーム。ゲームとしては比較的単純で、プレイヤーのアイデンティティに依存する部分も低いため、ゲーム参加者が増えてもゲームの効用や収益性は一定以上には向上せず(漸近マーケット効果)、むしろ初期にはゲーム内での混雑が収益性を低下させる事態が発生した。
ゲーム内で育成や繁殖させたAxieというNFTキャラクターを売買するマーケットプレイスが存在するため、プレイヤーは多くのAxieを育成や繁殖させ、ゲーム内の多様性を高めてゲームの価値を高めるネットワーク効果を発揮する。これは、Web2.0モデルのマーケットプレイスと同様の効果を持つ。
Axie Infinityのプロジェクトチームは、ガバナンストークン(AXS)を発行し、DAO(分散型自律組織)への移行を目指している。DAOの初期段階では、参加者が誰か相互に知っていて信頼関係を構築可能だが、大規模になると参加意義が薄れ、ネットワーク効果は薄れる。しかし一方で、コミニュティやゲームに対する愛着からDAOへ参加する行為は、信念ネットワーク効果が伴うため防御力を高まることになる。
結 論
この2つのケースだけで、Web3の多様なビジネスモデルの成功の可否を語ることは、極めて難しいということが分かる。ただし、ネットワーク効果というWeb2.0時代の成功モデルに照らし合わせて見た場合に、Web3のビジネスモデルの特性やWeb2.0との違いが際立って見えてきたように思う。
Web2.0モデルは、端的に言えば、特定のマーケットプレイスにユーザーを引き寄せ、需給関係者を一致させ、好循環を発生させ、規模の論理で囲い込み(防御力)を図るためにネットワーク効果を活用していたと言える。しかし、Web3モデルでは、オープンアキテクチャーや分散型という特性が前提になっているため、特定のマーケットプレイスに囲い込むような防御力は弱い。マーケットプレイスネットワーク効果やプラットフォームネットワーク効果は存在するが、Web3の特性上その効果は強いとは言えない。
また、Web3モデルがまだ初期段階にあることから、信念ネットワーク効果やプロトコルネットワーク効果、バンドワゴンネットワーク効果など、ビジネスサイクルの初期段階に見られる特徴的な一部のネットワーク効果しか得ていないとも言える。
つまり、現在のGAFAなどのビックテックを目指すようなビジネスモデルは、そもそもWeb3では成立しにくいと考えるのが妥当なのだろう。従来とは異なる論理や価値観でWeb3のビジネスモデルを捉えていく必要があるようだ。
今後のWeb3の可能性を評価していくためには、現在のネットワーク効果よりも幅広いフレームワークで評価し、成功モデルを見極めていきたい。
Bay Area Newsletter が新しくリリースされた Substack アプリ(iPhone版)で読めるようになりました。