Weekly Newsletter #245
AutoCon 4 現地レポート in Austin~「自動化」は終わり、「自律化(Autonomy)」と「デジタル同僚」の時代へ/NVIDIA、Q3決算でAIインフラの「第2フェーズ」入りを宣言-Blackwellチップがデータセンターの物理設計を変える/Palo Alto Networks、オブザーバビリティ企業「Chronosphere」を33.5億ドルで買収。AI時代の「データ監視」を再定
Photo:会場となったAustinの夜景(筆者撮影)
11月も下旬に入り、ベイエリアは感謝祭(Thanksgiving)を前にホリデーシーズンの準備で慌ただしくなってきました。
今週、私はテキサス州オースティンで開催された「AutoCon 4」に参加しています。世界中からネットワーク自動化の専門家が集うこの場所で確認されたのは、運用スタイルが「自動化(Automation)」から「自律化(Autonomy)」へと完全にフェーズ移行したという事実です。もはやエンジニアはスクリプトを書くだけでなく、AIエージェントという「デジタル同僚」と共にインフラを守る時代に突入しました。
一方、市場ではNVIDIAが決算で驚異的なAI需要を証明し、ワシントンからはGoogleへのChrome売却命令という衝撃的なニュースが報じられています。GoogleChromeではなくなる日も近いかも。今週は、そんな変化の真っ只中にある米国の「今」をお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
Weekly Newsletter #244:2025年データ侵害(Data Breach)リストが更新。教訓は「侵入は防げない」前提の対応力/スイス通信大手Swisscom、「自律型ネットワーク」導入を加速/AIの「脳」を解明するヒント? ニューラルネットは「暗記」と「問題解決」を別経路で処理していた
Weekly Newsletter #243:自律ネットワークの夢、いまどの辺?/需要を“自ら創る”投資:NVIDIA×Poolside/その通知、本当に本人?――Teams脆弱性で広がる“社内なりすまし”の罠
IMPACT 2025 が今年も開催!
AutoCon 4 現地レポート in Austin~「自動化」は終わり、「自律化(Autonomy)」と「デジタル同僚」の時代へ
photo: AutoCon4 in Austin 会場の様子(筆者が撮影)
今週テキサス州オースティンで開催されたネットワーク自動化の専門カンファレンス「AutoCon 4」に参加してきました。今回の最大のテーマは、従来の「Automation(人がトリガーする自動化)」から、AIを活用した「Autonomy(自己修復・自己最適化する自律化)」への進化です。
会場で最もホットなトピックとなったのは、LLM(大規模言語モデル)とネットワーク運用の融合です。しかし、単に「AIに設定を書かせる」といった単純な話ではありません。AIを論理的な思考を担う「左脳(解析・戦略)」と、対話を担う「右脳(LLM)」に分け、それらを組み合わせて信頼性の高い「自律型ネットワーク」を構築するというアーキテクチャが示されました。特に注目すべきは「AIエージェント」の台頭です。これからのエンジニアは、CLI(コマンドライン)を叩くだけではなく、AIエージェントという「デジタル同僚(Digital Co-workers)」に指示を出し、テストや調査を任せる働き方へとシフトしていくことが確実視されています。
また、技術論だけでなく「組織と人」への言及が多かったのも印象的でした。自動化プロジェクト失敗の8〜9割は技術ではなく組織的な要因にあるとされ、エンジニア自身が経営層に対し、技術の価値を「NPV(正味現在価値)」や「待つことのコスト(Cost of Waiting)」といった“お金の言葉”で説明する「インパクトモデル」の重要性が強調されました。
技術的には、Kubernetes上で検証を行う「KNE」や、Aristaの「AVD」のようなデータモデル駆動型のアプローチが標準になりつつあります。AIは魔法ではなく、こうした強固な基盤の上に成り立つ「ブースター」であり、私たちは今、ネットワークエンジニアとしてのキャリアを再定義する分岐点に立っていると強く感じさせられる3日間でした。
NVIDIA、Q3決算でAIインフラの「第2フェーズ」入りを宣言-Blackwellチップがデータセンターの物理設計を変える
Photo: Ausitinの街中ではストリートアートが多くありました(筆者が撮影)
11月19日(現地時間)、AI半導体の王者NVIDIAが2026年度第3四半期(2025年8-10月期)の決算を発表しました。売上高は前年同期比62%増の570億ドル、データセンター部門の売上だけでも512億ドルに達し、市場の極めて高い期待をさらに上回る結果となりました。
ジェンスン・フアンCEOは、次世代AIチップ「Blackwell」の需要について「信じられないほど高い(incredible)」と表現し、AIブームが一過性のものではないことを改めて証明しました。このニュースがインフラエンジニアにとって重要なのは、AIデータセンターが「第2フェーズ」に入ったことを示唆している点です。Blackwellのような超高性能GPUクラスタを稼働させるためには、従来の空冷や銅線ケーブルでは限界があり、液冷システムや光インターコネクトへの大規模な移行が不可欠となります。
今回の決算は、ハイパースケーラー(Microsoft, Google, AWS等)だけでなく、エンタープライズ企業や各国政府(Sovereign AI)が、物理インフラの再構築に巨額の投資を続けている現状を浮き彫りにしました。シリコンバレーでは、この新しい「AIデータセンター」に特化した光スイッチ技術や冷却技術を持つスタートアップへの注目が再燃しており、2026年に向けてネットワーク市場はさらなる特需が見込まれます。
Palo Alto Networks、オブザーバビリティ企業「Chronosphere」を33.5億ドルで買収。AI時代の「データ監視」を再定義
photo: 筆者が撮影
サイバーセキュリティ最大手のPalo Alto Networks(パロアルトネットワークス)は11月19日、クラウドネイティブなオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームを提供する「Chronosphere」を約33.5億ドル(約5,100億円)で買収すると発表しました。
シアトルにルーツを持つChronosphereは、Google等のハイパースケーラー出身者が創業し、膨大なメトリクスデータを効率的に処理・分析する技術で急成長してきたスタートアップです。Palo Alto Networksのニケシュ・アローラCEOは、買収の背景について「既存のオブザーバビリティツールは、AI時代のデータ量に対してコストがかかりすぎる」と指摘し、Chronosphereの技術を取り込むことで、セキュリティ(SOC)と運用監視(NOC)のデータを統合し、コスト効率とAI解析能力を飛躍的に高める狙いがあるとしています。
今回の買収は、同社が先日発表したCyberArkの250億ドルでの買収に続く大型案件であり、セキュリティ企業が「運用のデータ基盤」そのものを握ろうとする「プラットフォーム化」戦略の表れと言えます。AutoConでも議論された通り、自律型ネットワーク(Autonomous Network)の実現には、高品質なテレメトリデータが不可欠です。セキュリティとネットワーク監視の境界線が消え、AIがその両方をリアルタイムで守る未来に向けた、象徴的な業界再編と言えるでしょう。
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