Weekly Newsletter #265
AI インフラの主戦場は、GPUの数から「使い切る力」へ。Aria Networks の大型調達、AI 生成ゼロデイ、Apple–Intel の製造委託、Cerebras のIPO を手がかりに、ネットワーク・半導体・セキュリティと、シリコンバレーで起きている変化を読み解きます。
こんにちは、5月はRio がお届けします。
撮影: 筆者
カリフォルニア発のハンバーガーチェーンIn-N-Out Burger。
1948年にロサンゼルス近郊のBaldwin Parkで創業し、今も冷凍・作り置き・電子レンジなしを掲げる、地元民に愛される西海岸の定番です。
ドライブスルーに車がいない瞬間を見たことがなく、昼と夜のピーク時はいつもドライブスルー渋滞が起きています。
ちなみにドライブスルーで注文すると、車内で食べるか?っと聞かれ、もしそう答えた場合車内ですぐ食べられる形態で提供されます。
エンジェルス時代の大谷翔平選手は、記者に好きなアメリカの食べ物は?と聞かれ、即答で “In-N-Out” と答えたことがあるそうです。
日本だと食に困った際は近場のコンビニであったり、牛丼チェーンに駆け込むっといったことができますが、シリコンバレーにそんなものはなく、個人的に唯一その居続けになっているのがIn-N-Out Burger です。🍔
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
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GPU の数ではない、AI ネットワークが利益率を決める時代へ - Apstra 創業者のAria Networks が1.25 億ドル調達
Photo: Unsplash(@markuswinkler)
📚 トピックのポイントを3 行で
Juniper Networks に2020年に買収されたApstra の創業者Mansour Karam 氏創業のAI 推論時代向けの新ネットワーク企業Aria Networks がステルスから登場
シリーズA で1 億2,500 万ドル(約 188 億円: $1=150 円換算) を調達、すでに本番運用の顧客にも導入が進む
「AI 競争の次の勝負所はGPU の数ではなく、ネットワークがGPU をどれだけ使い切れるか(MFU・トークン効率) で決まる」とKaram 氏は明言
4月7日、Palo Alto 拠点の Aria Networks が1 億2,500 万ドルのシリーズA を発表し、AI ネットワーキング市場の新たな挑戦者として姿を現しました。
出資はSutter Hill Ventures、Atreides Management、Valor Equity Partners、Eclipse Ventures の4 社です。
額の大きさだけでなく、立ち上げから15 か月ですでに有料顧客への本番展開が始まっている点が、AI インフラ業界の前のめりな期待を表しているように見えます。
Karam 氏はArista Networks の最初の事業責任者として2006年に入社し、同社の2014年IPO(時価総額約 40 億ドル) までグローバル事業開発を率いた人物です。
その後2014年にApstra を創業してIntent-Based Networking という新カテゴリを切り拓き、2021年にJuniper に約 1 億9,000 万ドルで売却。
そこから2 年間AI インフラ業界を観察したうえで、2025年1月にAria を共同創業したという経歴の持ち主です。
つまりネットワーク機器産業の主要な世代交代を3 回経験してきた創業者が、4 度目の調整をしていると見れます。
Aria の中核はDeep Networking と呼ぶ多層型プラットフォームです。
Broadcom Tomahawk 5/6 を採用したスイッチハードウェアとSONiC OS をベースにしつつ、その上に、ASIC(スイッチの処理エンジンとなる専用チップ) からNCCL/RCCL (GPU 間の通信を束ねるNVIDIA/AMD 向けライブラリ) までを貫くマイクロ秒単位のテレメトリ収集と、それを処理してリアルタイムに最適化を行うソフトウェア層を載せています。
ASIC レイヤーは超高速反応、クラスタレイヤーは推論的判断、最上位レイヤーはLLM とエージェントが運用者と協調する。
というのが彼らの説明です。
ネットワークが性能を出さなければ、他のすべての最適化投資は無駄になる
なぜ今、ネットワークがAI 経済の中心になるのか?
Karam氏は、ネットワーク機器ベンダーがこれまで主にネットワークチームを対象に製品を販売してきたと指摘しています。
その際に重視されてきたのは、レイテンシー、スループット、パケット処理性能でした。
しかし、AI ファクトリーのエンジニアが重視しているポイントは、それとは異なります。
彼らが追うのはトークン効率、Model FLOP Utilization (MFU: モデルの理論FLOPS のうち実際に使えている割合)、コスト・パー・トークン です。
LLM ルーター、スケジューリング、GPU を別々に最適化しても、ネットワークが詰まればすべてが連動して低下します。
つまりネットワークはシステム全体の中で最もレバレッジの高い部品にもなり得る、という主張です。
推論を取り巻く状況も、大きく変わりつつあります。
1年半ほど前までは、「ネットワーク負荷の中心は学習であり、推論はノードにリクエストを送り、結果を返すだけ」と考える人も少なくありませんでした。
しかし、リーズニングモデル(複雑な問題を段階的に考えて回答するAIモデル)、強化学習、分散推論の組み合わせによって、この状況は大きく変わりました。
現在では、1つのクエリが多数のエージェントに分散され、フロントエンド、バックエンド、ストレージ、KVキャッシュ(過去の計算結果を再利用するための一時保存データ) の転送を横断します。
その過程で、メモリやストレージがボトルネックになることもあります。
こうした背景から、Prefill 段階(入力文を読み込み、初期計算を行う段階)とDecode段階(回答を1語ずつ生成していく段階) を分離するアーキテクチャも登場し始めています。
ボトルネックは処理の局面ごとに移り変わります。
それでも、ネットワークだけはどの段階にも関わり続けます。
推論クラスタには、ノイジー・ネイバー問題(一部の利用者の重い処理が、他の利用者の処理速度に悪影響を与える問題)もあります。
例えば、あるユーザーが複雑な質問を投げ、多数のエージェントを起動したとします。
その処理がリソースを大きく使うことで、隣で軽い質問をしている別のユーザーの応答まで遅くなってしまう、という構図です。
リーズニングモデルを使っているときに、応答が途中で止まったように感じたことはないでしょうか?
あれは多くの場合、分散システム側の調整待ちによって起きているとされています。
また、Karam氏は「Ethernet がAIクラスタを食い続ける」とも述べています。
これは、AIクラスタのネットワーク基盤として、Ethernet の採用がさらに広がることを示唆しています。
30年にわたってネットワーク業界に携わってきた経験から、Karam氏のモットーは「Ethernetに逆張りするな」だといいます。
InfiniBand は今後も特定用途では残るかもしれません。
しかし、NVIDIA 自身がSpectrum-X でEthernet を推進していることもあり、スケールアウトの領域では、すでに大勢が決まりつつある、と見るのが自然ではないでしょうか?
今後ネットワークインテグレーターが、そのネットワークが顧客のAI ワークロードのトークン経済をどう改善するのか? を語る日が来るかもしれません。
参考文献
Interview: Aria Networks CEO on Why Inference Is Reshaping the Network - Data Center Knowledge https://www.datacenterknowledge.com/infrastructure/aria-networks-ceo-inference-is-reshaping-data-center-networking
Aria Networks raises $125M, launches platform for AI factories - Network World https://www.networkworld.com/article/4155900/aria-networks-raises-125m-and-debuts-its-approach-for-ai-optimized-networks.html
Apstra founder’s Aria Networks raises $125M with Ethernet-based token efficiency promise - SDxCentral
https://www.sdxcentral.com/news/apstra-founders-aria-networks-raises-125m-with-ethernet-based-token-efficiency-promise/
AI が書いたゼロデイ攻撃が現実の世界へ - Google が捉えた初の大量悪用計画と、防御側のAI 武装
Photo: Unsplash(@dkomow)
📚 トピックのポイントを3 行で
Google のThreat Intelligence Group が5月11日、AI で開発されたゼロデイ脆弱性が実環境で観測された初の事例を公表
攻撃対象は人気のオープンソース管理ツールの2FA 回避脆弱性であり、コードにLLM が生成した典型的な痕跡を発見
中国・北朝鮮の国家系アクターもAI で脆弱性発見を加速させており、防御側もAnthropic Mythos やOpenAI GPT-5.5-Cyber で対抗フェーズへ
5月11日、Google の脅威インテリジェンス チームGTIG が、AI モデルを使って開発された可能性が高いゼロデイ脆弱性が実環境で使われた初の事例を確認したと発表しました。
脆弱性は人気のオープンソースWeb 系システム管理ツールに対する二要素認証 (2FA) を迂回するPython スクリプトとして実装されていました。
攻撃者はこれを大量悪用イベント に使う計画だったとされています。
Google は影響を受けたベンダーと連携してすでにパッチを提供しており、ツール名は公開していません。
注目したいのは、そのコードにLLM が書いた痕跡がはっきり残っていたことです。
GTIG によると、当該スクリプトにはdocstring (コードの各関数に添える説明コメント) が過剰に挿入され、脆弱性の深刻度を示すCVSS スコアにはAI がハルシネーションで作り上げた架空の値が付与されており、全体が教科書的なPython コードのように整然と書かれていたそうです。
watchTowr 社のRyan Dewhurst 氏は
AI はすでに脆弱性発見を加速させており、特定・検証・武器化のタイムラインを圧縮し続けている。
これは未来の話ではなく、もう何年もそうなっている。
と述べています。
Google は自社のGemini が使われた証拠はないと慎重に付記しています。
GTIG のレポートには、攻撃者側のAI 活用事例も複数並んでいて、こちらも見過ごせません。
中国系のUNC2814 は、Gemini にシニア セキュリティ監査人を演じさせるペルソナ型ジェイルブレイク(AI の安全制限を別の役割を演じさせることで回避する手法) でモデルを誘導し、TP-Link ファームウェアやOFTP (産業用ファイル転送プロトコル) 実装の脆弱性研究に使っていたと報告されています。
北朝鮮のAPT45 (Andariel) は、数千回の反復プロンプトでCVE の分析とPoC の検証を半自動化しています。
さらに中国系の別アクターが、エージェント型ペンテストツールのHexstrike AI とStrix を使って、日本のテクノロジー企業と東アジアの大手サイバーセキュリティプラットフォームを標的にしたという報告も含まれています。
決して対岸の火事ではないのです。
防御側もただ手をこまねいているわけではありません。
Anthropic は4月、脆弱性発見能力が高すぎることを理由にフラッグシップ モデル Mythos のロールアウトを一旦延期しました。
現在はApple、CrowdStrike、Microsoft、Palo Alto Networks などの選定済みパートナーに限って開放されています。
OpenAI も GPT-5.5-Cyber という派生モデルを、検証済みのセキュリティ チームへ限定プレビューで提供を開始しています。
AI 防御のためのAI が制限付きで配られる時代に入ったと言えそうです。
1度も失敗が許されない防御側に対し、攻撃者は99回失敗しても1回でも攻撃が成功すれば任務完了です。
こちらが申請、検証、予算取得、etc… とやっている間、攻撃者に社内申請はありません。
この攻撃側と防御側の非対称性を理解し、対策することが急務であると言えます。
参考文献
Hackers Used AI to Develop First Known Zero-Day 2FA Bypass for Mass Exploitation - The Hacker News
https://thehackernews.com/2026/05/hackers-used-ai-to-develop-first-known.htmlGoogle Detects First AI-Generated Zero-Day Exploit - SecurityWeek https://www.securityweek.com/google-detects-first-ai-generated-zero-day-exploit/
Google says it likely thwarted effort by hacker group to use AI for ‘mass exploitation event’ - CNBC
https://www.cnbc.com/2026/05/11/google-thwarts-effort-hacker-group-use-ai-mass-exploitation-event.html
半導体の「地理」が動き始めた - Apple がIntel に製造委託、Cerebras は時価総額950億ドルでNasdaq へ
左側の写真: AI Infra Summit 2025 Cerebras の講演にて筆者撮影
📚 トピックのポイントを 3 行で
AI 半導体のCerebras が米国時間で本日 5/14 Nasdaq デビュー、公募価格185 ドルに対し終値 311.07 ドル (+68%)、時価総額は約 950 億ドルに
Cerebras の上場は2019年Uber 以来の米テックIPO 最大規模
5月8日、Wall Street Journal がApple とIntel が米国向けデバイス用チップ製造で予備合意したと報じました。
両社の協議は1 年以上続いており、近月になって正式な合意に至っとされています。
Intel 株は報道当日に14%、年初来で200% 超を記録しました。
AMD と並んでChanging of the Guard in AI(AI 銘柄の主役交代) と呼ばれる買い圧力が半導体セクター全体を押し上げ、Apple のサプライチェーン見直しがいかに大きな出来事として受け止められているかを表しています。
トランプ政権が積極的に仲介していた点もWSJ は明らかにしています。
もともとApple は2020年にMac でIntel チップを離れ、自社設計のApple Silicon に切り替えてTSMC に製造を委ねてきました。
しかしTSMC はAI チップ需要で慢性的に逼迫しており、Tim Cook 氏自身が直近の決算でiPhone 17 の生産は四半期中ずっと供給制約を受けていた と認めています。
Intel CEO の Lip-Bu Tan 氏 (2025年3月就任) はファンドリー強化に集中しており、すでにNVIDIA から50 億ドル、Elon Musk のTerafab(Austin、$119B 投資計画) からも14A ノードの採用確約を得ています。
これにApple が加わると、米国ファンドリーのエコシステムは一気に厚みを増します。
また、米国政府は2025年にIntel への90 億ドル連邦補助金を株式に転換した背景もあります。
もう 1 つ、同じシリコンの地殻変動を別の角度から示すニュースが本日 5月14日に出ました。
AI チップ企業Cerebras Systems (ティッカー CBRS) がNasdaq に上場し、公募価格185 ドルに対し初値350 ドル、終値311.07 ドル(+68%)、時価総額は約 950 億ドルに達しました。
3,000 万株を売り出して55.5 億ドル(約 8,325 億円) を調達。これは2019年Uber 以来の米テックIPO 最大規模であり、需給は応募が公開枠の20 倍を超えたとBloomberg は伝えています。
とはいえ、Cerebras がここに辿り着くまでには紆余曲折がありました。
2024年9月に最初のIPO 申請をしたものの、UAE のG42 への株式売却を巡って対米外国投資委員会(CFIUS) の審査が長期化、2025年10月にいったん登録を取り下げていました。
今回は売上が2025年に5.1 億ドル(前年比+76%)、純利益2.38 億ドルへと黒字転換した直後の再上場で、ArmとSoftBank の買収提案を蹴って公開市場を選んだという報道もあります。
Cerebras のWSE-3 はTSMC 5nmで製造される 4 兆トランジスタのウェハスケールチップで、ウェハ1枚をそのまま1つのチップとして使う独特のアーキテクチャを採用しています。
つまりCerebras も結局はTSMC 製造に依存しています。
ここで注目したいのは、シリコンの「地理」と「アーキテクチャ」は別の軸で同時に動いているという構図です。
地理面ではApple-Intel のようにTSMC 集中から米国ファンドリーへの分散が進む一方で、アーキテクチャ面ではCerebras のような非NVIDIA・非GPU 型AI シリコンが公開市場で正面から評価されています。
今後も半導体業界にどのような動きがあるか、注目していきたいと思います。
参考文献
Apple-Intel Foundry Deal Could Reshape U.S. Chip Manufacturing - EE Times https://www.eetimes.com/apple-intel-foundry-deal-could-reshape-u-s-chip-manufacturing/
Intel shares soar on Apple chip deal report. Here’s why it signals a total pivot for chipmaking - CNBC
https://www.cnbc.com/2026/05/08/intel-stock-apple-chip-deal.htmlCerebras (CBRS) starts trading on Nasdaq after IPO - CNBC https://www.cnbc.com/2026/05/14/cerebras-cbrs-stock-trade-nasdaq-ipo.html
Cerebras raises $5.5B, then stock pops $108%, in the first huge tech IPO of 2026 - TechCrunch
https://techcrunch.com/2026/05/14/cerebras-raises-5-5b-kicking-off-2026s-ipo-season-with-a-bang/
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