Weekly newsletter #27
全米でBlack Lives Matterの抗議運が広がる切っ掛けとなったジョージ・フロイド氏殺害事件の裁判において、元警官のデレク・ショーヴィン被告に有罪判決が下りました。裁判の様子は生中継され、判決が下ると全米各地で歓喜の声が上がりました。この判決結果の意味するところは非常に大きいと言われます。なぜなら、警官が業務執行中に人を殺しても、これまではほとんど起訴されなかったり、殺人罪などに問われることはなかったからです。米国では過去5年間で警察は1日に平均3人を殺害しているというショッキングなデータもあります。2005年以降調査では、140人の警官が人を射殺して逮捕されたが、そのほとんどは裁判で無罪や軽量な罪で釈放されている。
今回の事件は、全米で注目されていたということだけでなく、ジョージ・フロイド氏が拘束され、首元を9分29秒もの間押さえ付けられていた映像が、判決に大きな影響を与えました。17歳の少女がスマホで撮ったビデオ、警官のボディカメラの映像が、デレク・ショーヴィン被告の行為は合法的なものではなかったと結論づけました。
カメラ映像、とりわけAIを使った顔認識システムについては、Black Lives Matterの運動が大きくなる過程で、AmazonやMicrosoft、IBMなどのハイテク各社は警察などに対する販売を中止しました。黒人に対する認識率の精度が極めて低く、人種的偏見が反映されており、誤認逮捕などに繋がっていることが問題になったからである。
一方、米国会議事堂に暴徒が乱入した事件では、FBIはClearview AI社の顔認識システムを利用し、暴動に加わった主要な容疑者を特定して逮捕したとして物議を醸している。ClearviewAIの技術は、SNSなどのソーシャルメディアから取得した写真をデータベースと照合しているため、本人の同意なく生体情報が使われていることになり、プライバシー侵害で様々な団体から訴えられている。しかし、既に警察などの2,400を超える法執行機関で使用されていると言われる。
この問題に対して、超党派の国会議員グループにより、抜本的な解決を求める憲法修正第4条の非売品法(The Fourth Amendment Is Not For Sale Act)が提案された。修正第4条とは、不合理な捜査や押収に対して、身体や所有物の安全を保障する権利を守る法律だが、これを警察などの法執行機関が、令状なしにClearviewAIや位置情報を持つ企業などからデータを購入することを禁止する法案だ。
今や、SNSの拡散力、顔認識技術の精度やAIバイアス、プライバシーなど、問題は単純ではなく、それを誰が使うかによってその意味合いも違ってくる。ただし、17歳の少女の撮ったビデオ映像が正義を勝ち取る切っ掛けになったのは紛れもない事実である。テクノジーが権力のためではなく、正義のために使われることを信じたい。
奇しくも、EUでは顔認識を含むAI利用に対する規制法案が発表された。まさにテクノロジーの恩恵と危険性を規制を持って厳格化しようとする動きだ。GDPRと同様にEU内だけでなく、他の地域の規制にも影響を及ぼすことが十分に考えられるため、今後も注視していく必要がありそうだ。
Zoomが1億ドルのZoomApps投資ファンドを設立
Zoomは昨年App Marketplaceを立ち上げている。Zoomビデオ会議プラットフォーム上に様々なアプリケーションがアドオンできるようにSDKも提供されており、既に1,000以上にアプリが存在している。今回のファンド設立は、有望なアプリ開発をするスタートアップへの資金提供だが、さらにビデオ会議プラットフォームを中心としたエコシステムを拡大させる狙いがあるようだ。
近年、大手テック企業の多くはベンチャー投資部門を持ち、資金力のある新興企業もVCファンドを設立するなど、活発な投資活動をしている。最近では、オンライン決済プラットフォームのStripeが、VC企業を退けてリード案件を勝ち取るなど投資分野でも目立った動きをしている。先週IPOを果たしたCoinbaseは、以前よりCinbase Venturesを立ち上げており、暗号通貨に関連する企業100社以上に投資を行なってる。
このようにベンチャー投資が、単にリターンの大きい投資や有望な企業の将来的買収を視野に入れたものだけでなく、新たなプラットフォーマーが独自のエコシステム強化を図っているとも言えるのではないか。
https://techcrunch.com/2021/04/19/zoom-launches-100m-zoom-apps-investment-fund/
WordPressは、Google FLoCをデフォルトで無効にすると発表
WordPressは、GoogleのCookieに代わる新しいトラッキング技術であるFLoCをセキュリティ上の懸念から、WordPressのサイトではデフォルトでブロックする可能性があると発表した。その他にもMicrosoftのEdge、Mozilla Firefox、Braveなどの各ブラウザはFLoCを無効にするとしており、Googleの今後の動向に注目だ。
なお、FLoCについてはWeekly newsletter #20 でもお伝えしているのでご参考まで。
GoogleはCookieを廃止し新しい追跡技術を採用しないと主張 (Weeklynewsletter#20)
GoogleはChromeでのサードパーティCookieを2022年までに廃止すると発表。個人のWeb閲覧履歴に基づくターゲティング広告が出来なくなることを意味するが、代わりに「匿名化した集約属性のコーホート」を用いてユーザーデータを分析することを検討しているという。これは、FLoC(Federated Learning of Cohorts:連合学習コホート)と呼ばれ、収集した閲覧情報を匿名化された類似の閲覧集団としてグループ化して、所属グループを「コホートID」としてウェブサイトや広告主と共有するものである。個人特定しなくとも属性に基づいたターゲティング広告は可能ということになる。EFF(電子フロンティア財団)は「FLoCは最悪な考えだ」と表現し、属性の大きさやログイン情報などと結びつけて個人追跡も可能、加えて属性に基づく広告は、民族や宗教、性別などの差別的な広告の温床になることに変わりはないと反対を示している。
ディープラーニングセキュリティのDeepInstinctは1億ドルを調達
Deep Lnstinctは、ディープラーニング(深層学習)を活用したエンドポイントセキュリティをエージェントレスで実現するサイバーセキュリティのスタートアップです。今回は世界最大の投資会社BlackRockがリードしたシリーズDラウンドで1億ドルを調達。別のインタビュー記事では、近いうちにユニコーンの評価になると自信に満ちた発言をしている。AI活用を標榜したセキュリティ企業は多数あるが、従来は機械学習が一般的で、同社は深層学習を使っている点がポイントだ。未知の脅威を20ミリ秒で検出・停止し、誤検知を99%削減するという。既に日本には進出済みで、今後の成長に注目です。
https://venturebeat.com/2021/04/22/deep-instincts-neural-networks-for-cybersecurity-attract-110m/
パブリッククラウドの支出は2021年に3,320億ドルに達する
Gartnerは、パブリッククラウドの世界的な支出は2021年に3,323億ドルに達し、2020年から23.1%増加すると予測している。最大のセグメントはSaaSで1,226億ドル規模で、最も成長率が高いのはDaaSのセグメントです。いずれもパンデミックによりリモートワークが加速している状況を反映していると言えます。2021年以降は、5GやIoTなどのテクノロジーが本格的に飛躍し、エッジコンピューティング市場では2024年には2,506億ドルに達するとIDCは予測している。
https://venturebeat.com/2021/04/21/gartner-predicts-public-cloud-spending-to-reach-332b-in-2021/