Weekly Newsletter #217
“すべての仕事”を自動化?物議を醸す新興企業/データセンター直結の原発電力、規制当局が待った/ NVIDIA、米国初のAIチップ生産へ大規模投資
Data Center World 2025のカンファレンス会場の様子(2025年4月、ワシントンD.C.)
先週ワシントンD.C.で開催されたData Center World 2025に出張し、最先端のデータセンター事情を肌で感じてきました。
今年のテーマは「Powering the Future(未来への電力供給)」ということで、会場では電力と持続可能性に関するセッションが多かったです。中でも興味深かったのは、Googleが小型原子炉(SMR)を使ったデータセンター電力供給計画を発表していたことです 。Kairos Power社と提携して2030年までにSMRで500MWを供給する目標とのことで、AI需要による爆発的な電力ニーズに対応するための大胆な取り組みは興味深いものでした 。
他にもAmazonやMicrosoftも相次いで原子力に注目している状況ですが、20年前に一度盛り上がり頓挫した「原子力ルネサンス」がAI時代に再燃している印象です。会場の展示エリアには巨大な空調設備もそびえ立ち、電力の地産地消や冷却技術などインフラ面からデータセンターを支える工夫が各所に見られました。「発電所がデータセンターのお隣に建つ時代が来るかも?」なんて声も聞かれ、新鮮な驚きとともに最新動向を学べる出張となりました。
Weekly Newsletter #215:OpenAI、過去最大規模の巨額資金調達を実施/ ウェイモのロボタクシー拡大、クルーズは撤退/ シリコンバレーに春到来、野生の花々が丘を彩る
“すべての仕事”を自動化?物議を醸す新興企業
Photo:O-DAN
🌏今週のニュースのポイントを3行で
シリコンバレーで「全ての仕事の完全自動化」を掲げるスタートアップが登場
著名AI研究者が設立、人間の仕事をAIエージェントで置き換える壮大な野望を発表
同氏の研究機関の中立性にも影響しかねずと業界内外で賛否両論となっている
AI研究者のタマイ・ベシログル氏が、「全ての仕事をAIで自動化する」という大胆なミッションの新興企業Mechanizeを立ち上げたと報じられています 。
同氏は非営利AI研究機関Epochの創設者でもあり、その極端な目標は業界に大きな波紋を広げています。Mechanizeは「経済の完全自動化」を掲げ、あらゆる職種をAIエージェントに置き換えることを目指すとのことです 。 具体的には、どんな仕事でも自動化できるよう必要なデータや評価手法、デジタル環境を提供していく計画だそうです。
ベシログル氏は市場規模について「米国の労働者賃金総額18兆ドル、世界では60兆ドルにもなる」と試算し、その潜在性は「荒唐無稽なほど巨大」だと指摘しています 。まずは肉体労働ではなくホワイトカラー業務の自動化に注力するとも説明しており 、ロボットではなくソフトウェアAIでオフィスワークから置き換えていく狙いのようです。
この発表に対し、SNS上では懐疑的な声も少なくありません。あるAI研究者は「自動化の大きな恩恵は企業にとって魅力的だが、人類にとっては大きな損失になる」と指摘し、多くの企業が追求する方向性ではあるものの「この動きには悲しさを感じる」との反応もありました 。また、創設者が率いるEpochはAIの経済影響を分析し性能評価指標を提供する中立的立場の研究機関と見られていただけに、その代表がこのような商用スタートアップを始めたことで「研究機関の impartiality(中立性)が損なわれるのでは」との懸念も示されています 。一方でMechanizeにはNat Friedman氏(元GitHub CEO)やPatrick Collison氏(Stripe社CEO)、GoogleのJeff Dean氏ら著名投資家が名を連ねて支援していると報じられ、物議を醸しつつもシリコンバレーならではの壮大な挑戦に注目が集まっています 。
データセンター直結の原発電力、規制当局が待った
🌏今週のニュースのポイントを3行で
原発に直結したデータセンターの電力利用計画に規制当局がブレーキ
Amazon関連施設で300MW超の直接供給に認可下りず、運営企業は司法で争う構え
巨大IT企業の電力確保競争が引き起こす新たな電力契約モデルに当局が懸念
米国東部で、原子力発電所に直接接続するデータセンターを巡って規制当局と企業の綱引きが起きています。ペンシルベニア州のTalen Energy社が運営する原発(Susquehanna)敷地内にAmazonが取得したデータセンターがあり、同施設は原発から最大1,000MWもの電力供給を直接受ける計画でした 。これは送電網を介さず発電所とデータセンターが直結する「コロケーテッド(co-located)契約」の一例で、AI時代の電力需要逼迫に対応すべく生まれた新手法です 。しかし米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は昨年、このデータセンターへの供給上限を300MWに制限する決定を下し、それ以上の増強を認めませんでした 。今月、その再審理を求める申立ても却下され、規制当局の判断が改めて支持された形です 。
当局が懸念するのは、大量の電力が発電所から直接IT企業に振り向けられることで一般電力網の安定や公共料金に影響が及ぶ可能性です 。実際、このAmazon関連データセンターへの電力供給が周辺地域の電力コスト上昇や信頼性低下につながるのでは、との指摘がFERC委員から出ていました 。一方で企業側にとっては接続待ち時間を省ける直接契約は魅力的で、AI需要に迅速に応える切り札でもあります 。今回FERCの再審理却下を受け、発電所側のTalen社は連邦控訴裁判所での争いに持ち込む構えを見せており 、巨大IT企業による電力確保競争と規制のせめぎ合いが新たな局面を迎えつつあります。
NVIDIA、米国初のAIチップ生産へ大規模投資
🌏今週のニュースのポイントを3行で
NVIDIAが自社AI半導体を初めて米国内で生産開始へ、巨額投資を発表
アリゾナ州TSMC工場で次世代GPU「Blackwell」製造開始、テキサスに組立拠点も建設
政府も歓迎、AI需要拡大に向けたサプライチェーン強化と国内雇用創出に期待
GPU大手のNVIDIA(エヌビディア)が、自社の最先端AIチップを米国内で本格製造する計画を明らかにしました。創業者ジェンスン・フアンCEOによれば「世界のAIインフラのエンジンが、史上初めて米国で作られようとしている」とのことで、これにより急増するAI向け半導体需要への対応力や供給網の強靭化が図られると述べています 。具体的には、現在台湾TSMCがアリゾナ州フェニックスに建設中の工場で最新GPUアーキテクチャ「Blackwell」世代の生産を開始したほか、テキサス州ヒューストンとダラスにはFoxconnおよびWistronと提携してAIスーパーコンピュータの組立工場を建設中とのことです 。これら米国内拠点での量産は今後12〜15か月で本格化し、チップのパッケージングやテスト工程もアリゾナ州で行う計画とされています。
この動きは、近年米国政府が進めてきたハイテク製造業の国内回帰戦略とも軌を一にしています。実際、ホワイトハウスはNVIDIAの発表を受けて「トランプ政権の製造業振興策の成果」と歓迎のコメントを出しました 。トランプ大統領は就任以来、半導体をはじめとする最先端分野の生産を米国内に呼び戻す取り組みを加速させており、その流れの中でNVIDIAも巨額投資を決断した形です。NVIDIA側も「米国での製造強化によって何十万人もの雇用創出と数兆ドル規模の経済効果が期待できる」とアピールしており 、AI時代の新たな“産業基盤”づくりが本格化しています。世界中で高性能チップ不足が叫ばれる中、米国内生産の開始は国内通信事業者やデータセンター企業にとっても安定供給への安心材料となりそうです。
最後までお読みいただきありがとうございます!励みになりますので、ぜひLikeボタン (♡) をお願いします!
今回は取り上げなかったけれど面白かったニュース
毎回楽しみにしてます。いつもありがとうございます
いつも役に立つ情報をありがとうございます!
自動化のスタートアップ、大変興味深いです。