Weekly Newsletter #231
小型原子炉で冷却と電力を同時供給する次世代AIデータセンター、7.5 億ドルを呼び込むNetOps の自動化領域、そして許認可を半減させる米AIインフラ大改革――世界の“AI基盤争奪戦”の今を一気読み。
写真: 筆者撮影
こんにちは、Rio です。
シリコンバレーのとある交差点で信号待ち中、ふと前のテスラを見ると──
「I BOUGHT THIS BEFORE WE KNEW ELON WAS CRAZY」
のステッカーが目に入りました。
皮肉たっぷりのアメリカらしいジョークに、車内でひとり笑ってしまうほどインパクトがありました。
マスク氏の物議を醸す発言や政治的な立ち位置への反発から、過去にテスラ車が抗議の的になることもあり、オーナーが「私は熱狂的支持者じゃないよ」と身を守るために貼った一枚だと推測します。
こんなユーモア?が飛び交う街から、今週も注目ニュースをお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
Weekly Newsletter #230: 生成AI を全庁導入したサンフランシスコ市、インフラ管理OSS で資金調達を加速するNetBox Labs、そしてAI データセンター特需で過去最高受注を記録したABB(瑞)--急拡大するAI インフラを巡る米国の最新動向を俯瞰します。
Weekly Newsletter #229:生成AI 時代の人材像を示す米NISTの「AI セキュリティ」新設、光ファイバーを活用した超高密度地震モニタリングのベイエリアでの実証、そしてGPU 冷却で膨らむ水リスクに対応するカリフォルニアAB93 法案の内容とは?
Oklo × Vertiv 小型モジュール炉でAI データセンター冷却革新
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
SMRの排熱を液冷に再利用、給水ゼロで高密度AIラック対応
初号機はアイダホINL 隣接Aurora サイトで実証へ
原子力規制と燃料調達が課題、2027年商用化を目指す
AI向けデータセンターの電力と冷却を同時に賄う新モデルとして、小型モジュール炉(SMR) 開発の Oklo と、無停電電源装置や液浸システムを手掛ける Vertiv が提携を公表しました。
背景には AI 計算需要の急増で電力だけでなく冷却用水も逼迫しつつある状況があり、それに対する一解決策を示した形となっています。
Vertiv はDC インフラ世界大手で、両社はSMR を生かした「電力+冷却」統合モデルを新たに計画しています。
Oklo が開発する1.5 MW 級高速炉「Aurora」をアイダホ国立研究所に隣接して設置し、発電時に得られる約350℃ の蒸気を高効率熱交換器で冷媒へ伝え、液浸タンクを循環させる仕組みのようです。
高熱の蒸気を使って冷却するイメージがなかったので調べたところ、吸収式冷凍機というのがあり、基本的にはその仕組みを使っているのではないかと推測されます。
エアコンや冷蔵庫のようなヒートポンプによる断熱圧縮を用いた方法だとコンプレッサーを動かすためのなんらかの動力(モーターなど)が必要で、そこにまた電力を使うことになりますが、この方式ではほぼ電気を使わずに発電の排熱を利用してサーバーを冷却できるようです。
※素人の筆者が描いたため、誤っている点がありましたらコメントでご指摘お願いします。
そのため、電力使用効率PUE(Power Usage Effectiveness) は1.05未満、水使用量は実質ゼロと謳われています。
また、従来の空冷方式比でラック当たり消費電力を約30%削減できる試算も示されています。
許認可はアメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC) 審査が進行中で、SMR 燃料の長期供給も課題はあるようですが、Oklo は 2026年建設開始、27年商用運転を掲げ、追加投資を募っています。
これまでもSMR は逼迫するAI データセンターの電力問題の解決策の一つとして示されて来ましたが、冷却も一旦に担える可能性があることには驚きました。
参考文献
Oklo and Vertiv Announce Collaboration to Advance Power and Cooling Solutions for Hyperscale and Colocation Data Centers in the United States
https://oklo.com/newsroom/news-details/2025/Oklo-and-Vertiv-Announce-Collaboration-to-Advance-Power-and-Cooling-Solutions-for-Hyperscale-and-Colocation-Data-Centers-in-the-United-States/default.aspxInnovative clean energy partnership addresses critical data center power and cooling challenges
https://www.vertiv.com/en-us/about/news-and-insights/corporate-news/oklo-and-vertiv-announce-collaboration-to-advance-power-and-cooling-solutions-for-hyperscale-and-colocation-data-centers-in-the-united-states/
NetBrain に7.5 億ドル—生成 AIで NetOps を加速
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
Blackstone Growth が NetBrain に7.5億ドルを成長投資
インテントベースのデジタルツインで障害復旧を自律化
生成AI 機能と世界販売網を強化、アジア展開も視野?
ネットワーク自動化プラットフォーム NetBrain は 7月22日、Blackstone Growth から 7.5 億ドルの大型出資を受け、生成AI 時代のNetOps 市場で主導権を狙うと発表しました。
NetBrain は、ネットワーク自動化とAI のマーケットリーダーと位置付けられており、Fortune 500(アメリカのビジネス雑誌Fortune が毎年発表する、アメリカ国内の企業収益ランキング上位500社) 企業の1/3以上で採用されているとされています。
NetBrain にはAuto-Discovery 機能があり、機器のCLI やAPI 経由で情報を自動収集してトポロジを学習し、サービス要件を “インテント” として自動生成・維持する仕組みがあります。
また、構成ドリフトや障害を検知すると修復フロー(Runbook)を自律的に実行する機能を有しているのも特徴です。
Blackstone はグローバルチャネル網とM&A 資金を供給し、市場統合のハブに据える計画で、グローバルでの営業体制を強化させる見込みです。
新たに獲得した資金は、生成AI による異常予兆検知やRunbook の自然言語提示機能へ投入され、運用担当者のさらなる負荷低減が期待されます。
先週の記事ではNetBox が追加投資を獲得 した件を伝えましたが、今週もNetOps 領域で動きがあり、引き続きこの領域は注視していきたいと感じました。
参考文献
Blackstone Makes a Significant Growth Investment into NetBrain to Rapidly Expand Network Automation and AI Solutions to Global Enterprises at a $750M Valuation
https://www.blackstone.com/news/press/blackstone-makes-a-significant-growth-investment-into-netbrain-to-rapidly-expand-network-automation-and-ai-solutions-to-global-enterprises-at-a-750m-valuation/Blackstone Makes a Significant Growth Investment into NetBrain to Rapidly Expand Network Automation and AI Solutions to Global Enterprises at a $750M Valuation
https://www.netbraintech.com/news/blackstone-expand-ai-solutions/NetBrain Technologies Announces Significant Growth Investment from Blackstone
https://www.summitpartners.com/news/netbrain-technologies-announces-significant-growth-investment-from-blackstone
米AI アクションプランと3大大統領令、連邦が主導権へ
📚トピックのポイントを3行で
AI イノベーション、インフラ、外交安全の三本柱で90超の施策
100MW 級AI データセンター許認可を最短 14 か月に短縮
厳格規制州は連邦資金対象外、州法との攻防が激化
ホワイトハウスは 7月23日、「Winning the AI Race」と題する包括的 AIアクションプランと三つの大統領令を同時発表し、AI 投資と規制の主導権を連邦レベルへ引き寄せたと報じました。
示されたアクションプランでは、
研究予算と人材育成を促す「Innovation」
電力・通信インフラと100MW 超データセンターを迅速整備する「Infrastructure」
同盟国と安全保障・輸出管理を連携する「International Diplomacy & Security」
の三本柱で構成され、省庁横断で90 超のタスク(ワークストリーム) が走るようです。
大統領令の第一はAI データセンターを「Qualifying Project」に指定して国家環境政策法(NEPA) 審査をこれまでの最短26か月から14か月に圧縮。
第二は商務省と国務省がAI フルスタック輸出パッケージを整備。
第三はバイアス検証を通過しない AI システムを連邦調達から排除、というような内容になっています。
さらに、行政管理予算局(OMB) は「過度に制限的な州法を持つ州へは連邦AI 予算を配分しない」とし、連邦通信委員会(FCC) にも通信規制との整合性を精査するよう要請したとされ、連邦から州への圧力が見て取れます。
トランプ政権では、米国の製造業回帰が強く打ち出されており、AIとそれを取り巻く環境についても、規制と補助金をテコに推進する姿勢が見て取れます。
また、「バイアスの検証」が三番目に挙げられていますが、普段自分がAI を使用する際にも、改めて注意を払う必要があると再認識させられました。
参考文献
White House Unveils America’s AI Action Plan
https://www.whitehouse.gov/articles/2025/07/white-house-unveils-americas-ai-action-plan/Trump derides copyright and state rules in AI Action Plan launch
https://net1us.substack.com/publish/post/169179306
最後までお読みいただきありがとうございます!
励みになりますので、ぜひLikeボタン (♡) をお願いします!