Weekly Newsletter #229
生成AI 時代の人材像を示す米NISTの「AI セキュリティ」新設、光ファイバーを活用した超高密度地震モニタリングのベイエリアでの実証、そしてGPU 冷却で膨らむ水リスクに対応するカリフォルニアAB93 法案の内容とは?
Photo:筆者が撮影 in Walmart
こんにちは、Rio です。
アメリカで生活してみて驚いたシリーズ第2段はこちらです。
パッと見なんの変哲もないスーパーの冷蔵コーナーですが、実はこれ全てチーズコーナーです。
一面に並ぶチーズの数と種類に思わず足が止まりました。
アメリカ人は今、なんと年間 18 kg ものチーズを平らげているそうです。
USDA 最新統計では 2023 年の米国チーズ消費が過去最高 40.2 lb(≒18.2 kg)/人に達しており、世界市場も 3,200 億ドル規模へ拡大中でとのことです。
また、人気品種はモッツァレラが引き続き首位、チェダーが追随、ピザ&メキシカン需要が牽引とのことでした。
それでは今週も最新ニュースをお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
Weekly Newsletter #228: GPUクラスタを“仮想発電所”に変えて電力ピークを削る最新技術、AI規制を5年間凍結するか否かで揺れる米連邦 vs 州の攻防、そしてAIデータセンター電力需要30倍・CO₂排出11倍という衝撃予測
Weekly Newsletter #227:AIスキルがキャリアの鍵に:ISACA調査が示す未来の働き方/史上最大のデータ流出:160億件のパスワードが晒される脅威/ オークランド空港、名前を変えてイメージ刷新なるか?
米NIST 職能フレーム改定: AIセキュリティ職を新設
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
NICE Framework 草案がAI Security を正式職能として追加
敵対的MLやモデル脆弱性分析など30超のスキルを明示
AIを守る人材像を連邦・産業界で統一
米国標準技術研究所(NIST) は7月10日、サイバー人材指針「NICE Framework」の改訂草案を公表し、生成AI時代をにらんだ新コンピテンシー「AI Security」を追加しました。
NICE Framework って?
米連邦と民間で共通指針となるサイバー職務フレームワーク(職務ロール定義書) です。
今回の草案ではAI Security を「NF-COM-002」として独立区分し、敵対的機械学習(モデルに誤判定させる攻撃) やデータ汚染リスクなど、AI 特有の脅威に対応する30以上の知識・技能(TKS) が列挙されています。
AI セキュリティを巡る議論自体は 2024 年のNICE会議などで予告されていましたが、公式ドキュメントとして具体的なものがでてきたのは今回が初のようです。
同時に既存の「サイバー犯罪捜査職」はFBI と共同で全面改訂され、AI 関連タスクとの対応関係が整理されたようです。
コメント受付は7月17日までで、年内に最終版を発行し各省庁の採用ガイドへ組み込む予定になっています。
様々な領域で積極的な活用が進むAI ですが、効率を重視し、セキュリティ対策が後手になっている現状もあるようで、Security for AI は引き続き注視すべき領域だと感じました。
NICE Framework にAI Security が追加されたのもそういった背景があることの裏付けかもしれません。
参考文献
Proposed NICE Framework Updates for Public Comment – Cybercrime Investigation and AI Security
July 17 Deadline: Submit Comments on Proposed NICE Framework Updates
既設光ファイバー地震センサー化: ベイエリア50 mile 実証
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
LLNL が80 kmのダークファイバーを“8,000台の仮想地震計”に変換
M3.9 地震を高解像度観測、都市直下の揺れを詳細に把握
活断層が密集するベイエリアのリスク評価を細密化する新データが誕生?
ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL) は2025年3月、サンフランシスコ湾岸の未使用光ファイバー回線を分布型音響センシング(DAS) で常時モニタリングし、マグニチュード3.9 の地震波を1メートル間隔で検出することに成功しました。
LLNL の実験では、光ファイバーケーブルに信号を送り、光の散乱位相のわずかな変化からケーブル繊維の伸縮を推定することで、地震波の検出を可能としたようです。
サンフランシスコ-サニーベール間の約80 km 区間に仮想的な8,000台の地震計が並んでいると見なすことができ、既存の常設地震計と比べて千倍規模の空間解像度を実現したと報告されています。
また、交通振動や地下構造の反射も同時に記録でき、都市インフラの細かな揺れまで可視化できる点が注目されています。
一方の日本ではNIED(防災科研) が運用する高感度地震計網(Hi-net 約800台) や強震計網(K-NET/KiK-net 約1,700台) などを統合した観測網MOWLAS(陸海統合地震津波火山観測網) があり、GNSS による観測も含めると観測点は陸上だけでおよそ 7,000 もあるようです。
そういった背景からか、日本ではDAS を主に海底通信ケーブルへ適用し、津波やスロースリップ(ゆっくりすべり) のごく微弱な信号をとらえる方向に活用を広げています。
例えば、2023年10月にはJAMSTEC が室戸沖の海底ケーブルで DAS 観測を行い、鳥島近海で発生した数センチ規模の津波を約 60 km 沖合でのリアルタイム検知に成功しています。
あまり地震のイメージがないアメリカですが、サンフランシスコ湾周辺はサンアンドレアス断層系のほか、ヘイワード、カラベラスなど複数の活断層が存在する地区です。
米地質調査所(USGS) は「今後 30 年以内に M6.7 以上の大地震が起こる確率を 62 %以上」と見積もっており、埋立地や耐震設計がされていない建物が多い市街地では局所的な被害が懸念されてきました。
日本人故に地震の話題でつい長くなってしまいましたが、災害対策で各国が連携し、安心、安全な街が増えるとよいなと思いました。
参考文献
Lawrence Livermore National Laboratory “Bay Area fiber becomes 8,000 virtual seismometers”
JAMSTEC “Tsunami Propagation Observed via Seafloor Fiber Optics”
USGS “2014 Working Group on California Earthquake Probabilities”
カリフォルニアAB93法案:DC水使用量の開示義務
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
GPU 冷却で急増する水使用を州が可視化へ
年次報告+虚偽には偽証罪、自治体ごとに基準設定
ESG 開示・立地コストに新たな判断材料
カリフォルニア州議会は7月9日、データセンターに水使用報告を義務付けるAB93 修正案を審議委へ再付託し、今秋の本会議採決へ向けた最終調整に入りました。
AB93(法案) はビジネスライセンス取得時に年間想定水量、更新時に実績水量を自己申告させ、未申告や虚偽申告にはペナルティ=偽証罪を科すといった内容が含まれます。
法案はデータセンターを電力規模でⅠ~Ⅲ型に分類し、閉ループ冷却や再生水利用などの効率基準を自治体が追加設定できる仕組みとなっています。
さらに公共水道事業者が実施する料金算定の需要分析に「データセンター向け給水量」を明示するよう義務付け、“見える化”が図られています。
この法案の背景として、GPU冷却による1施設あたり日量数千万リットル級の引き取り増があるようです。
同様の規制はオレゴン州やテキサス州でも検討中で、可決されれば北米におけるDC の地理選定には電力+水の二重規制を前提とした再計算が必要になります。
人間は電気と水を必要としますが、それはAI も同様なようです。
参考文献
California Legislature “AB 93 Water Resources: Data Centers (Amended July 9, 2025)”
Legislative Tracker “AB 93 Actions & Status”
https://trackbill.com/bill/california-assembly-bill-93-water-resources-data-centers/2587804/
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