Weekly Newsletter #228
GPUクラスタを“仮想発電所”に変えて電力ピークを削る最新技術、AI規制を5年間凍結するか否かで揺れる米連邦 vs 州の攻防、そしてAIデータセンター電力需要30倍・CO₂排出11倍という衝撃予測
Photo:筆者が撮影
みなさんはじめまして、Rio です。
2025年6月1日よりシリコンバレーで新たに駐在することとなりました。
渡米から1ヶ月が経過し、その中で個人的に一番衝撃的だったのが上記写真の換気扇です。
アメリカではガスコンロの上に電子レンジがあり、その電子レンジに換気扇が付いているのが一般的なようですが、この換気扇にも2種類あります。
1つ目は、想像通り吸気したものを異なる空間に排気することで空気を循環させるもの。日本では当たり前ですよね。
しかし、写真はそれとはことなる2つ目のタイプ、吸ったものをそのまま上から放出する換気扇。。。
ものの考え方や文化の違いを、住居が決まるまでの間のホテルで体感することとなりました。
それでは今週も、そんなアメリカはシリコンバレーからRio 記念すべき1回目の最新ニュースをお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
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GPU クラスタを“仮想発電所”化する Emerald AI
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
GPUジョブのワークロードを30秒ごとに調整し、ピーク電力を最大25%カット
DR 市場と接続して“削減分=発電”を売電し、新たな収益源を創出
遅延は3%未満で実用レベル、DC 運用とグリッド制御の境界を塗り替える
NVIDIA 系VC(NVentures) などが支援する新興Emerald AI は、AI ジョブを 30 秒おきに“ちょっと止めたり、緩めたり” することで、3 時間のピーク帯に最大 25 % 電気を節約できたようです。
なぜ“仮想発電所”(VPP=Virtual Power Plant) と呼ぶのか?
Emerald AI ではConductor という制御ソフトを使用しています。
Conductor は複数の GPU クラスターを「出力を柔軟に変えられる一つの発電ステーション」と見立て、送電網から「いま電力が不足している」という傾向(価格・需給) を受け取ると、学習やバッチ推論など待機可能なジョブの処理能力を 30 秒〜数分間だけ抑制します。
一方でチャット応答のようなリアルタイム性が求められる待てないジョブに対しては処理性能を維持します。
その結果、電力を供給する側から見ると、“25 MW クラスの小型発電所が突然出現した” のと同じ効果になるようです。
Demand Response(DR) って?
供給が逼迫する時間帯に需要側が自発的に消費を下げる仕組みを指します。Conductor はDR 市場とAPI 連携しており、アリゾナ州における公営電力(SRP) が主導した実証実験では、3時間連続でGPU クラスタにおける電力を25 % 削減しながらも、推論における遅延は3% 未満に収めることに成功したようです。
似たような費用抑制の例として、AWS EC2 におけるスポットインスタンスがあります。
これは未使用のコンピュートリソースを活用することで、オンデマンド料金に比べ最大90% 安く利用できるものですが、リソースが逼迫してくると最悪使えなくなります。
一方、Conductor による制御では処理が「少し遅くなる」だけで済むので、運用の手間をあまり気にしなくてよいのは利点ではないでしょうか?
また、こういった消費電力抑制の仕組みが取り入れられているかどうかも、今後のDC 選定における1つの判断基準になるかもしれません。
国内においても、再生可能エネルギーの使用比率の高い地域にあるDC で活用できるのではないかと思いました。
参考文献
Nvidia-backed Emerald AI raises $24.5m to turn data centers into grid assets
Emerald AI Launches with $24.5M Seed Round to Transform AI Data Centers into Grid Allies
How AI Factories Can Help Relieve Grid Stress
https://blogs.nvidia.com/blog/ai-factories-flexible-power-use/
AI DC 電力30倍、排出11倍、家庭負担も増?—2 大レポートが警鐘
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
Accenture は2030年にAI 由来電力612 TWh/CO₂ 11倍、Deloitte は米AI DC 電力 4→123 GW(30倍) を試算
米主要9市場のうち8地域で住宅電気料金が全米平均を上回り、最大 +16 % まで上昇と報告
送配電投資・炭素税・料金転嫁を織り込んだ立地選定とPPA 戦略が企業の必須課題に。
Deloitte の分析では、北バージニア・フェニックス・ダラスなど 9大DC 市場のうち8 地域で住宅用電気料金の上昇率が全米平均(約 +2.6 %) を超え、最大+16 %(フェニックス都市圏) に達していると報告しています。
米国で急増するAI データセンターは 1 施設あたり5MW から50MW 級へスケールアップしており、2GW クラスの巨大データセンター計画も存在します。
その裏で送電・変電の前倒し投資が電気代の“基本料金”にのしかかり、家庭が負担を肩代わりする構図が指摘されています。
日本でも石狩・楢葉・九州北部でAI 向けデータセンターの建設計画が進んでいますが、関東・関西で同規模案件が増えると火力依存度が高い分、家庭料金への波及リスクもあるのではないでしょうか?
何事にも光と影があると感じさせられます。
参考文献
Powering Sustainable AI
Can US infrastructure keep up with the AI economy?
Rising data center loads pose grid reliability, residential cost risks
AI 州規制5年凍結案――州権 vs イノベーションの攻防
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
50州バラバラのAI規制を5年間ストップし連邦ガイドライン一本化を狙う条項が“メガ法案”に浮上
上院で条項は削除されたものの、下院協議で復活の余地が残り「州権 vs イノベーション」論争が激化
凍結の成否しだいで企業のコンプライアンスコストとAI投資計画が大きく揺れる見込み
何が起きているのか?
米国には EU におけるAI 法のような包括連邦法がなく、カリフォルニア州のAI 監査法案やテネシー州のELVIS Act など、州ごとにバラバラな規制案が乱立し始めている実情があります。
企業は50 州 × 業種別の義務を確認する羽目になり、特にスタートアップには法務コストが重く、これが「イノベーションを阻害する」と言われる所以なようです。
一方、保守派知事17名は「消費者保護は州の責任」と主張し 州権侵害だと反発。
もし条項が復活すれば 2026 年まで は連邦ガイドライン(NIST AI RMF など) だけを追えばよくなりますが、削除されたまま成立すれば早ければ 2026年から州別義務が次々と発効する見込みです。
日本では2025年5月にAI 促進法 を成立させ、「努力義務+ガイドライン」で中央集権的に整備を進めています。
もし条項が復活して成立した場合、米国と日本の双方にサービスを提供する企業は「米国は州ごと」「日本は中央ガイドライン」という二重対応を迫られるかもしれません。
参考文献
New push for national AI rules likely after state ban fails
https://www.axios.com/2025/07/03/artificial-intelligence-moratorium-future-regulation
How a GOP rift over tech regulation doomed a ban on state AI laws in Trump’s tax bill
Senate pulls AI regulatory ban from GOP bill after complaints from states
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州によるAI規制のところですが、こちらにも関連記事があったので共有しておきますね。
米上院、州によるAI規制の禁止案を圧倒的多数で否決:
https://www.cio.com/article/4015689/
上院は99対1で、州によるAI規制を10年間禁止する案を否決。今後の動きも注目ですね。