Weekly Newsletter #230
生成AI を全庁導入したサンフランシスコ市、インフラ管理OSS で資金調達を加速するNetBox Labs、そしてAI データセンター特需で過去最高受注を記録したABB(瑞)--急拡大するAI インフラを巡る米国の最新動向を俯瞰します。
Photo:サンフランシスコ オラクルパークにて筆者が撮影
こんにちは、Rio です。
現地時間7月12日(土)、サンフランシスコ湾を望むOracle Parkで伝統の「ジャイアンツ vs ドジャース」戦を観戦してきました。
この日はジャイアンツのレジェンド、バリー・ボンズ氏が始球式に登場し、会場を沸かせていました。
プレイボールの約2時間前に球場入りしたため、先着順と思われる同氏のボブルヘッド を手に入れることができました。
みなさんも気になる大谷選手ですが、肘の手術後としては今期最長となる3回を無失点で投げ、最速160km/h 台の速球に観客がどよめいていました。
しかしここは敵地なだけあり、大谷選手が登場する度にブーイングも聞こえ、メジャーを感じました。
一方の打席では4打数無安打でしたが、一人の人間、しかも日本人が世界最高峰のメジャーリーグという大舞台で投手としても、打者としても試合に出場する姿には感動しました。
生きる伝説の活躍をリアルタイムで見れる貴重な瞬間に立ち会えていることを改めて認識しました。
それでは今週も最新ニュースをお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
Weekly Newsletter #229:生成AI 時代の人材像を示す米NISTの「AI セキュリティ」新設、光ファイバーを活用した超高密度地震モニタリングのベイエリアでの実証、そしてGPU 冷却で膨らむ水リスクに対応するカリフォルニアAB93 法案の内容とは?
Weekly Newsletter #228: GPUクラスタを“仮想発電所”に変えて電力ピークを削る最新技術、AI規制を5年間凍結するか否かで揺れる米連邦 vs 州の攻防、そしてAIデータセンター電力需要30倍・CO₂排出11倍という衝撃予測
サンフランシスコ市、生成 AI を全庁3万人に本格導入
📚トピックのポイントを3行で
Copilot Chat を3万人に本格展開、6か月の効果測定で職員1人あたり週5時間の業務削減を確認
5週間の研修 + InnovateUS 連携、Microsoft Government Cloud 環境で安全運用
フィードバックを反映しガイドラインを継続改訂、他業務への拡張も視野
アメリカ西海岸に位置するサンフランシスコ市は、半年間のパイロットで得た知見を基にMicrosoft 365 Copilot Chat を全米自治体で最大級となる全職員約3万人への本格展開を開始しました。
市は既存ライセンス(追加コストなし) を活用してCopilot Chat を導入し、OpenAI GPT-4o を組み込んだAI アシスタントをGCC(Microsoft Government Community Cloud) 上で稼働させることで、連邦基準を満たすデータ保護と監査性を確保していると説明しています。
2024年9月〜2025年2月に実施した事前の効果測定1では、2,000名超が参加し、メール作成やレポート要約などで平均週5時間の生産性向上が報告されており、それが本格展開の判断材料になっていたようです。
また、AI の全職員への導入に合わせ、市はMicrosoft と共同でライブ講座・オフィスアワーを組み合わせた5週間の集中研修を開始。
さらにアメリカの公務職員向けに無料のデジタルスキルやイノベーション教育を提供するInnovateUS と連携し、公共部門向け「責任ある AI」コースを提供し、安全にAI を使用するための職員リテラシーの向上も同時に行われています。
運用面では、7月8日に改訂した「San Francisco Generative AI Guidelines 2025」で、
責任を持つこと (You’re responsible)
セキュアなツールを使うこと (Use secure tools)
生成結果を必ず確認すること (Always check the output)
透明性を保つこと (Be transparent)
ディープフェイクの禁止 (No deepfakes)
の5大原則が明示されており、Emerging Technology Team が随時アップデートするなど、職員の実務フィードバックを受けながら継続的に改善していく方針となっているようです。
市公式声明では、
第一フェーズ完了後も利用状況を分析し、交通管理や許認可業務など他分野へ段階的に適用領域を広げる
と述べられており、生成AI の行政実装モデルとして全国自治体のモデルケースとなりそうです。
上記ガイドラインはリスク度別のガイドや具体的なAI の使用が禁止されているタスクがシンプルかつ明解に書かれており、すべての人が今一度確認すべき内容だと感じました。
本事例は「試験導入 → 効果測定 → 全庁展開 → ガイドライン改訂」とステップを踏んでおり、日本においても自治体のみならず、企業内におけるAI 利用に関しても参考にできる部分が多くあるのではないでしょうか?
参考文献
GovTech (2025-07-15): San Francisco Gives Thousands of City Staffers AI Access
https://www.govtech.com/artificial-intelligence/san-francisco-gives-thousands-of-city-staffers-ai-accessCities Today (2025-07-16): San Francisco rolls out AI assistant to 30,000 staff
https://cities-today.com/san-francisco-rolls-out-ai-assistant-to-30000-staff/SF.gov Press Release (2025-07-14): Mayor Lurie Brings AI Technology to San Francisco Government
https://www.sf.gov/news-mayor-lurie-brings-ai-technology-to-san-francisco-government-cementing-city-as-global-ai-leader
NetBox Labs、インフラ管理のOSS を核に3,500万ドルを調達
Image source: NetBox project (© NetBox Community contributors), licensed under the Apache License 2.0.
📚トピックのポイントを3行で
OSS のIPAM/DCIM であるNetBox の商用化企業、NGP Capital 主導でシリーズB 3,500万ドルを調達
Fortune 500やScale AI が採用
NetBox Cloud/Operator でAI による自動化を見据える
OSS のネットワーク管理プラットフォームNetBox を商用展開する NetBox Labs (米NY) が、シリーズB で3,500万ドルを調達し、AI 時代のインフラ運用基盤として一段と存在感を高めています。
同社は7月14日、テクノロジー分野に投資するVC であるNGP Capital が主導する資金調達を発表。(Sorenson Capital、Headline なども参加)
既存投資家のSalesforce Ventures、Two Sigma、IBM なども追加出資しました。
調達資金は製品開発と人員拡充(100名→年内150名体制) に充当し、チャネルプログラムを整備してグローバル販売を強化すると述べています。
急拡大の背景には、AI データセンタの建設ラッシュでネットワーク規模と複雑度が急騰し、インフラのSSoT (Single Source of Truth) への需要が高まっていることが一因としてあるようです。(NetBox Labs はNSoT (Network SoT)という表現もしています)
既にNetBox を利用しているCoreWeave のネットワーク責任者、ジム・ジュルソン氏は
NetBox は、私たちの自動化によるスケジュールの前倒しに欠かせないツールです。インフラの展開がたとえ1か月早まるだけでも、収益に直接影響を与えます。NetBox は、インフラが本番環境に入った後の運用の効率化と自動化を可能にしてくれます。
と述べています。
その他の大手テック企業(ARM、Cisco、J.P. Morgan 等) も信頼を寄せており、注目度の高い企業と言えそうです。
NetBox Labs はすでにSaaS版 NetBox Cloud / Enterprise を展開しており、ネットワーク情報を自動収集するNetBox Discovery、構成ドリフト修正のNetBox Assurance など、続々と機能が拡充されています。
次に登場する製品NetBox Operator は、NetBox セマンティックマップ2を使い、AI が自律的に動く仕組みが構想されているようです。
これにより、ネットワークの設定変更や障害対応の作業を、人間の手を借りずにAI がある程度自動で行うことを目指しているとされます。
筆者も日本でエンジニアをやっていた2021年頃から、構成管理ツールであるAnsible のインベントリにおけるSSoT として使用しており、使い勝手の良さから注目していました。
その頃はOSS のみで製品版は存在しませんでしたが、数年でシリーズB まで成長しており、今後の機能拡張とグローバル戦略に今後も注目していきたいと思います。
参考文献
NetBox Labs Blog (2025-07-14): “We’ve Raised Our $35M Series B”
https://netboxlabs.com/blog/netbox-labs-has-raised-our-35m-series-b/GlobeNewswire (2025-07-14): “NetBox Labs Raises $35M Series B”
https://www.globenewswire.com/news-release/2025/07/14/3114790/0/en/NetBox-Labs-Raises-35M-Series-B-to-Meet-Demand-to-Modernize-Network-and-Infrastructure-Operations.htmlCRN (2025-07-14): “NetBox Labs Raises $35M For AI Data Center Buildouts”
https://www.crn.com/news/networking/2025/netbox-labs-raises-35m-for-ai-data-center-buildouts-network-infrastructure-modernization
スイスABB、米国でのAI データセンター特需で受注過去最高
📚トピックのポイントを3行で
2025年4–6月期の受注額は89億ドルで過去最高、米国は+37%と牽引
データセンター向け配電・電源ソリューションが2桁成長、年内に米工場へ1億2千万ドルを追加投資
AI DCの電力需要は2035年に123 GWへ―周辺インフラ商機が拡大
スイスの重電大手ABB は7月17日の決算で、2025年第2四半期の受注が前年同期比14 %増の89 億ドル(約1.4 兆円) と過去最高に達したと発表しました。
国別では米国が37 %増と突出し、AI ワークロード向けデータセンターの建設に使用される製品需要に支えられ、「10〜20 %増」で業績を押し上げたといいます。
急増するデータセンター建設案件に対応するため、ABB は3月にテネシー州ナッシュビルとミシシッピ州サミットの低圧機器工場へ総額1億2千万ドルを投じて生産能力を倍増させる計画を公表しています。
また、米国内生産比率80 %というサプライチェーンは、追加関税リスクを抑えつつ短納期要求に応える体制を整える狙いと見られています。
市場背景として、Deloitte は「米AI DC の最大電力需要が2024年の4GWから2035年に123GW へ30倍超に伸長する」と試算。
さらにBloomberg Intelligence も2025〜26年に米DC電力需要が20〜40 %増え、2026年以降も二桁成長が続くと分析しており、電源・配電設備への投資は中長期的に高止まりする見通しとなっています。
ABB CEOのモーテン・ウィーロッド氏は先の決算説明会で
ABBは、これまでで最高となる受注額を記録し、業務のパフォーマンスも改善しました。地政学的な不安がある中でも、私たちは新たな記録を達成できそうな良い流れに乗っています。
と述べており、営業利益は9 %増の17 億ドル、株価は決算発表後に7 %上昇する結果となっています。
急増するAI ワークロード向けデータセンターの建築は良くも悪くも様々な影響を与えており、当然ながらその建築資材にも特需があるようです。
参考文献
ABB posts record orders on booming US and data centre demand (2025-07-17)
https://www.reuters.com/technology/abb-beats-forecasts-with-q2-earnings-2025-07-17/ABB Group Press ReleaseQ2 2025 results (2025-07-17)
https://new.abb.com/news/detail/127767/q2-2025-resultsDeloitte Says Power Demand from AI Data Centers Could Reach 123 GW by 2035 (2025-07-15)
https://www.publicpower.org/periodical/article/deloitte-says-power-demand-ai-data-centers-could-reach-123-gw-2035Bloomberg AI energy demand to climb in 2025-26 despite efficiency gains (2025-04-11)
https://www.bloomberg.com/professional/insights/artificial-intelligence/ai-energy-demand-to-climb-in-2025-26-despite-efficiency-gains/
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効果測定は「利用ログ+大量サーベイ」で素早くインパクトを把握し、本導入フェーズではMicrosoft 側の使用テレメトリと定期アンケートを組み合わせた ハイブリッド計測に移行する計画がされているようです。また、ログ基盤が整った後はメール生成件数やExcel アシストなど、業務別の実績 KPI を自動集計し、より客観的なROI 評価が可能になる計画のようです。
この文脈ではネットワーク機器同士のつながりや依存関係など、どういう関係性があるのかをAI が理解しやすくした構造化された情報のこと(筆者解釈)