Weekly Newsletter #240
生成AI 時代の電力・信頼・政策の盲点とは? 投資家が警告する小型原子炉の商用化リスク、主権クラウドを巡る米欧の信頼競争、そして政府閉鎖が停滞させるAI 政策の現場から、インフラ・制度の揺らぎを読み解きます。
こんにちは、Rio です。
アメリカへ来た当初、自宅の住所を電話口で伝える際、言い方も意味も知らず、恥ずかしながら「Blvd」をそのまま「ビーエゥヴィディ」っと伝えていました。
実は電力会社へアカウント開設を依頼するための電話での出来事で、相手の復唱でブルバードと読むことを知りました。
これは通りに応じた表記で、他にも「○○ St」「△△ Ave」などがあります。
日本だと「○○通り」くらいしか区別がないので、通りにこれだけ種類があるのかと驚き、少し調べてみました。
ざっくり言うと、Street は街を東西に走る道、Avenue はそれと直交する南北の道というのが昔のニューヨークなどでの決まりだったらしいです。
※今は必ずしもそうではない
一方、Boulevard は中央分離帯があって広い並木道のような通りらしいです。
ほかにも、Lane は細い路地、Drive はカーブの多い道、Court は袋小路など、それぞれに特徴があるようで、もともとは、19世紀に都市が整備されていく中で、道の種類を区別してわかりやすくするために生まれたネーミングとのこと。
地名ではなくその通りの名前を見ればそこがどんな雰囲気の場所なのか、なんとなく想像できるというのは、日本にはあまりないので新鮮でした。
それでは今週もシリコンバレーから注目ニュースをお届けします。
先週のニュースレターを見逃した方はこちら
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小型原子炉は救世主にならない?Wall Street が警告する新たな原子力リスク
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
次世代AI データセンター向けの電源として期待されるSMR に冷ややかな視線
燃料供給・許認可・コスト超過が事業化の足かせに
金融界は「過剰な期待」に警鐘、株価反落の動きも
米国では、2030年までに複数のSMR(Small Modular Reactor) を商用稼働させるという政府目標が掲げられています。
背景には、AIインフラの電力需要急増と、脱炭素目標の両立という政治的要請があり、柔軟に導入可能で、温室効果ガスを出さないSMR は、その理想的な“解”として、官民双方から大きな期待が寄せられています。(#231 でも取り上げています。)
しかし、最近になって金融業界からの評価に変化があったようです。
Wall Street の複数のアナリストは、「商業化には技術よりも時間とコストが最大の壁になる」と指摘しており、「想定コストの20〜30%超過」「スケジュール遅延は最大3年」など、初期プロジェクトの実績からリスクが顕在化していると指摘されています。
中でもNuScale 社が進めていたユタ州の建設計画は、コスト急騰により昨年キャンセルされ、市場に大きな衝撃を与えていました。
さらに、稼働に必要な高濃縮低濃度ウラン(HALEU) の90%以上がロシア産に依存している現状が、地政学的リスクとして警戒されているようです。
こうした状況下、Oklo やTerraPower などの未上場企業に対する投資は慎重姿勢が目立ち始めています。
主要な年金ファンドや機関投資家の一部は「資金の使い道と出口戦略が不透明」として新規投資を見送っており、関連企業のバリュエーション(企業の価値評価額や時価のこと) にも影響が出ていると報じられています。
もちろん、米エネルギー省(DOE) による約9億ドル規模のSMR 支援策や、地域マイクログリッドに対する政策的な後押しといった支援の方向性そのものに、大きな変更があったわけではありません。
しかし、Wall Street が見るのは革新性ではなく事業回収性であり、AIインフラを支える電源としてSMR が本当に“主役”になれるのか?同じタイムスパンであれば核融合の方がいいのではないか?その問いに、市場は懐疑的な視線を向け始めていると見られます。
参考文献
Advanced Small Modular Reactors (SMRs)
https://www.energy.gov/ne/advanced-small-modular-reactors-smrsSmall Nuclear Reactors Will Not Save The Day
https://oilprice.com/Energy/Energy-General/Small-Nuclear-Reactors-Will-Not-Save-The-Day.htmlWall Street Warns of Nuclear Tech Bubble
https://finance.yahoo.com/news/wall-street-warns-nuclear-tech-230000218.html
信頼されるクラウドはどこに?米欧で加速する“ソブリンクラウド”競争
Photo: Pixabay
📚トピックのポイントを3行で
EU主導で進む“デジタル主権”とソブリンクラウドの構築が再加速
米国も連邦機関向けに国内設計・運用を義務付ける動き
信頼・相互運用性・規制適合性がクラウド選定の新たな軸に
クラウドはどこに置くかより誰が運用し、どう信頼されるかが問われる時代へ。
米欧で加速するソブリンクラウド(主権クラウド) の波は、ITインフラに新たな選定基準を突きつけているようです。
ソブリンクラウドとは、特定の国や地域の法制度・データ主権のもとで構築・運用されるクラウド環境のことです。
EU では、フランスのOrange やドイツのT-Systems などが米大手パブリッククラウドと提携しつつ、欧州法準拠のサービスを提供する形で独自のクラウド基盤を築いてきた。
2025年9月からはEUのData Act(企業や個人が生成するデータの共有・利用を公正かつ透明に促進するための包括的な規制) も発効し、クラウド事業者には顧客の容易な乗り換え を保証するスイッチング義務が法的に課されるようになっています。
一方、米国でもクラウドを取り巻く信頼の基準に変化がありました。
連邦政府調達では、クラウドサービスのセキュリティ認証制度であるFedRAMP(Federal Risk and Authorization Management Program) に加え、近年ではデータの保管・処理・サポート体制をすべて米国内で完結させる構成を求める動きが強まっています。
特に司法・防衛・エネルギー系機関などでは、データ主権の観点から国外からのアクセスを完全に排除するクラウド環境を要求するケースも見られます。
この潮流は、単なる場所の問題にとどまらないことを示しています。
米欧ともに重視し始めているのは、クラウドプロバイダが自国法に適合しながら、どれだけ信頼できる運用体制を築けるか?という点にあります。
これは日本企業にとっても他人事ではなく、海外現地法人や政府系案件を抱える事業者はどのように信頼を証明するかが鍵になってくるのではないでしょうか?
例えばEU では、欧州主導で信頼性・相互運用性を重視するクラウド構築枠組みとしてGAIA-X(ガイアエックス) が推進されており、技術的優位性だけでは選ばれない時代が来ていると言えます。
参考文献
Overseas enterprises and US sovereign clouds
https://www.infoworld.com/article/4049339/overseas-enterprises-and-us-sovereign-clouds.htmlPrivacy, Cyber & Data Strategy Advisory | The Data Act: 5 Things to Know About the Data Act and New Switching Requirements for Providers of Cloud Services
https://www.alston.com/en/insights/publications/2025/09/eu-data-act-switching-requirements-cloud-servicesGSA Celebrates Major Milestones in FedRAMP Cloud Authorization Reform
https://www.gsa.gov/about-us/newsroom/news-releases/gsa-celebrates-major-fedramp-milestones-08112025
AI 政策も止まる?政府閉鎖がテック業界にもたらす予期せぬ歪み
Photo: Unsplash(@someguy)
📚トピックのポイントを3行で
予算未成立による政府閉鎖がAI・テック政策の実行を停止させる可能性
DOE, FCC, FTC などの連邦機関が立法・施策のボトルネックに
開発支援・規制設計・補助金支給が滞り、業界の不確実性が拡大
日本でも影響が出ている米国連邦機関の閉鎖。
米国連邦機関の日本向けSNS アカウントの更新が止まったり、横須賀基地でのイベントが中止されたり世間を騒がせていますが、米国のテック業界においても生成AI やクラウド政策の根幹にまで影響が及んでいるようです。
2025年10月現在、アメリカ政府は再びGovernment Shutdown(政府閉鎖) に突入しており、連邦予算の成立が難航する中で、多くの行政機関が業務停止や人員休職に追い込まれています。
日常業務への影響は広く知られていますが、近年は特にAI・クラウド・通信政策の停滞が業界に深刻な影響を及ぼしているようです。
米Nextgov の報道によれば、閉鎖が発生すると、エネルギー省(DOE) のAI 研究予算配分やインフラ整備支援が一時停止され、連邦通信委員会(FCC) は通信ネットワーク整備の審査を中断、連邦取引委員会(FTC) ではAI に関する倫理ガイドライン策定が先送りされる懸念があるようです。
さらに、AI スタートアップ向けの助成金やモデル審査フレームワークの導入が遅れるなど、技術面だけでなく事業判断にも影を落としています。
特に、AI 政策は大統領令や省庁横断タスクフォースによって推進されているため、1週間〜数ヶ月の停止がそのままスケジュール遅延を招きかねません。
企業側としては、補助金のタイミング、規制の確定、調達要件などが曖昧になることで、投資判断の先延ばしやリスクプレミアム(安全な投資よりも不確実な投資に求められる追加の見返り) の上昇が起きかねないと指摘されています。
皮肉にも、この混乱の一因は歳出法案にAI やデジタル政策が含まれるべきかどうかという党派間の対立が挙げられるとの見方もあるようです。
連邦レベルでの予算と法整備が滞れば、州レベルでの規制や独自ルールが加速し、業界は一層の制度断片化 に直面可能性もあります。
テック業界にとって、政府閉鎖は単なるお役所の都合では済まされず、制度の遅れが市場の遅れになる時代において、政治リスクはそのまま企業存続のリスクに直結していると言っていいかもしれません。
参考文献
Shutdown could delay Congress ‘getting serious’ about AI policy
https://www.nextgov.com/artificial-intelligence/2025/10/shutdown-could-delay-congress-getting-serious-about-ai-policy/408730/Here’s how a US government shutdown could impact telecom
https://www.fierce-network.com/broadband/heres-how-us-government-shutdown-could-impact-telecomThe Government Shutdown Enters Day 8, and It’s Getting Real
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2025-10-08/the-government-shutdown-enters-day-8-and-it-s-getting-real
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